第38話 アイおばあちゃん

惑星へいよいよ着陸するタイミングだった。

よく見ると小粒のような人が3人いるように見えた。


「ノア!人がいるわ。気球が離陸することは向こう側に伝わっているの?知らないなら危ないわ。」

「抜かりはない。」


その言葉にほっとすると、ゆらゆらと動いていた気球はいよいよ着陸して、予想より大きな揺れが生じたが、無事に辿り着くことが出来た。


私はシートベルトを外した。

ノアがそっとこちらに囁くように呟いた。

「君に会いたい人が下で待っている。君のことをよく知っている人だ。」


私は極度の人見知りなことまで知っているのか。それはノアなのだから当然であるか。


私はよくノアに悩みを相談する癖が昔から今まであるのだから。


ノアが先に降り、ドアをカチカチと鳴らし、開けるとそこは想像以上に広い美しい庭であった。


周りには草原が広がっていて、太陽が出ている。午後3時頃の快晴の日ような気持ちのいい場所だ。


3つの物陰がこちらに向かっている。

道とノアも気球から降りてきた。

道はノアにお礼を言っていたから、ノアと道にはポカポカとした雰囲気が流れている。

私はそれがとても嬉しい。


「こんにちは、3人とも。久しぶりだね。」

とノアが大きな声で3人に言う。

「ノア、夢乃を連れてきてくれてありがとう。それにたまには顔を出しなさい。」

「はは、すまないね。」


名前を呼ばれた。その人は大きな猫目、ヘーゼル色をした瞳、ツーンとしていて美しく鼻筋、短い眉、真っ赤な唇、とても美しかった。

しかしどこかで見たことがあるような顔をしていた。

私はノアとその女の人はまるでロマンス映画のヒロインと主人公のように感じる。

目を離すことが出来ない。


それだけでは無い。私が驚いた理由はその横を歩くノアの分身だ。

ルビー色の瞳をしたそれはそれはノアに似た猫であった。しかし表情はしっかりとあった。


「夢乃、久しぶりね。」

「えっと…。」

これは知ったふりをすべきであろうか。

「はい。久しぶりです。」

無茶があったのか、その人は上品に手に口に運び、ふふと目を細めて笑った。


「覚えていないなんて悲しいわ。でも仕方ないことね。私と夢乃が最後にあったのは、まだ夢乃が12歳の頃だったもの。本当に大きくなったわね。嬉しい。」


12歳、忘れもしない小学校最後の時期に、心が揺れ動き、アイおばあちゃんも亡くなってしまい悲しみの渦の真ん中にいた。

そして大好きなノアを譲り受けた年。

まさか――。


美しい人が道に視線をずらしながら尋ねた。

「あなたは夢乃のお友達かしら。」

「はい。友人兼恋人の笹山道です。」

「それは素敵ね。私は九条アイよ。それにしても夢乃に恋人ね。」

「九条…。」


九条アイという名を聞いて小さな可能性が強いものになっていく。


「どう思い出したかしら?」

「もしかしてアイおばあちゃん?」

「ええ。」


その一言を言った次にみるみると美しい人は年を取っていき、昔よく見たアイおばあちゃんに変わっていた。

驚きに声を出せない。

やっぱり、アイおばあちゃんだわ。


腰が曲がったアイおばあちゃんを咄嗟に、顔のサイズより大きな丸眼鏡を掛けた男性が支えた。

そして何より優しい声で心配、注意をした。


「アイおばあちゃん!」

あの姿を見てしまうと心配してしまう。

よくあの姿で寝たきりになったり、何度も死にかけたりしていたから。


それにしてもアイおばあちゃんがあんなに綺麗だったなんて知らなかった。花の匂いを纏っている。


私が男の人だったら、耳まで真っ赤にさせてしまうのだろう。

道の方を見ると何やら真剣に何かを考えていた。全く変わった人である。


ルビー色の瞳をした似非ノアが杖で出した椅子に座り、数分経ったら戻ると言ったので待つことにした。


「それにしてもどうしてノアさん2匹いるんだ?」

「私はアイ様のノアであるから、そちらの夢乃様のノアさんではないのですよ。分かりにくいので猫と及びください。」

「そうか。」

考えることを辞めたのか道は何も聞かなくなった。


アイおばあちゃんを見るととても懐かしくて、落ち着く。


「夢乃様にお会いしたいとおっしゃられていらしたので、このような機会にあえ嬉しいです。」


こちらのノアはとても丁寧で本物の執事のように感じた。


「大丈夫かい?」とアイおばあちゃんを心の底から心配し、あたふたしている男がいる。

とても幸せそうに皺を深くして笑うアイおばあちゃんを見るととても嬉しく思う。


あの時のアイおばあちゃんはただ窓を眺め、私と話す時以外は途中から寝ているだけだったから。

私は年寄りは皺を深くして笑うものだと思っていたから、とても心配だった。


「えっと道くんと夢乃さんでしたっけ?」

私と道は突然その男に話しかけられ、2人で視線をそちらに向けた。

そうすると少し驚いた素振りをみせ、眼鏡をかけ直し、

「僕は九条アイさんの夫で、幸男ともうします。」

と言う。


えっ!あんな綺麗な人と。

そう言えばアイおばあちゃんには旦那さんがいなかった。先に他界していたのか。


すると若い姿に戻り、アイおばあちゃんは

「はあ、やっぱりこっちの姿の方が動きやすいわね。肩もこるし。まあ!夢乃に姿を見せれたから悪くはないわ。さあ立ち話もなんですからいきましょ。」

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