第36話 道の思い出

杖のなる方へ向くと、ノアの杖は汽車や車、馬車など色んな乗り物に変形をしていた。


なんてヘンテコな光景なのだろうか。

ノアの顔は至って真剣なことが面白い。

悩み悩み果てたノアはこちらを向き、道へ問いかける。


「道くん、乗ってみたい乗り物はあるか?」

「乗ってみたいか…。」


道は視線を下を向け、正しく考えているような素振りをしている。

道が乗ってみたい乗り物、一体なんだろうか。

興味を向け道の言葉を聞く。


「気球に乗ってみたい…な。」

「はは、それはいいね。思いつかなかった。ありがとう、道くん。少し待っていてくれ。気球は作ったことがないから時間がかかる。」


ノアの笑い声は私は大好きであるが、今は少し悲しい想いになる。ノアはどうしようもなく、普通でいるから。


「夢、大丈夫かい?」

道はノアが気球作りに困難している最中こちらに心配そうに話しかける。


「うん、平気だよ。道は本当に心配性だね。」

「はは、他の奴にはそんなことないけどな。夢は何だか危なっかしいから。」

「そんなことは無いと思うけど。」

「いや!夢は好奇心の塊だから向こう見ずに行動する。老後は付きっきりで居ないと大変だな。」

「ふふ、老後ってそんな先まで考えてくれているの?」


私はこの旅行で小さく揺らいでいたのに。

チクリと感じてしまうが、凄く嬉しい。

気球を眺める。

どうやら火と杖を混じらわせるのが難しいらしく、珍しく頭を痛ませている。


「道はどうして気球を選んだの?」

「あー、あんまり深い理由はないし、面白くも無いがいいか?」

「うん。」

「俺は小さい頃、海外に家族で旅行に行ったことがあるんだ。どこへ行ったか覚えてないくらいガキの頃でさ。

でも1つだけ覚えていたんだ。それが気球だった。

気球から見る地球は大きくて、風も感じて、生きているって小さいながらに感じたんだ。

空も空気も光も全て俺の認識を変えた。

それが1番幼い頃の記憶だし、今までずっと忘れていたんだが、ノアさんに問われたとき、思い出したんだ。

あの景色が今見たらどう見えるのか知りたくてな。

まあ結局そのせいでノアさんを困らせているようだけどな。」

「それは楽しみだね。」


道が子どもの頃見た、景色はどんなものであっただろうか。

そしてこれから何を見るのであろうか。

ノアはピクピクと耳を動かしているのが見えた。


しばらくするとノアは

「よし!これなら問題ないだろう。」

と大きな声を告げた。


全ての時間が楽しく哀しいものに感じてしまう。


ノアが頬を真っ黒させ作った気球は、エメナルド色をした、それはそれは綺麗な柄の布としっかりと完成された乗り口があった。

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