第26話 人気者
この街は先へ脚を前へ動かすほど、鬱陶しい雨なんて気にならないくらい、好奇心を擽られる街である。
街並みの美しさもさることながらも、挨拶をし合う文化、科学では有り得ない範囲の動きをする遊具など目を離すことは出来ない。
「ノア様、今日はこちらにいらしたのですね。また直ぐに旅立たれるのですか?」とおさげな娘が。
「雨宿りに立ち寄ったまでです。」
「ノア氏、今度はいつ来るのかね。」と老紳士が。
「用事が終えたらまた訪れましょう。」
「ノア!今日は幼稚園で、押し花をしたの!これ貰って!」と子うさぎの幼女が。
「これは有難い。とても美しいね。」
ノアは十分と幅広い友人がいるようだ。5歩歩いたのみでこのように人に話しかけられる。帰宅の予定もないのに。
美しい色の宝石は雨の中でも輝きに帯びている。何より赤と緑の輝きは魅了してやまない。赤はイチゴジャムのような深みのある美しさと、緑には光により色が変わる神秘さがあった。
「ノア様、後ろの方々はどちら様なのでしょうか?」
「大切なお客さま達だ。雨が大降りになる前に部屋に案内しようかと招いたのだ。皆も早く家に帰った方が良いだろう。」
ノアを中心に少し小さな渦のようなものが出来ている。
しかし、その言葉を聞くと多くの人は解散した。
「ノアは凄いのね。」
「すまない、待たせてしまい。」
「ううん。みんなノアの帰りを待っていたのね。」
「はは、そうだね。夢乃が言うならそうに違いない。さぁ、本降りになる前にあそこの角に入るぞ。」
ノアの示唆した場所はあと2つ先の曲がり角のある細道であった。
この街はその奥まで見ると、まるで観光地のようにお店が建て並んでいた。
カフェ、洋菓子店、和菓子店、レストラン、洋服屋、アクセサリー屋、雑貨屋、食材屋、調味料専門店、球根店など、コアなものから王道なものまで。
この街があちらの世界にあったら、新たな街の指標になるのだろう。
雨は降られたくないものが多いらしく、人はみるみる少なくなっていった。それなのにノアにより街に人を集めさせるのは、私のような人が多いのだろう。
ノアはカツカツと前へ進み、道は私の腕を引っ張りながらついていった。
そのくらい目の離せる箇所がない街なのだから、情けなくてもしょうがない。
ノアの示唆する所へ到着すると、雨は先程よりポタリポタリとしか降らなくなっていた。
ノアはふやすやと呪文のようなものを唱える。
ノアはまた歩みを進め、2分間、まるで迷路のような細道を進む。
「ふぅー。ここは私の家だよ。」
その声のまま、上を向くと、ノアから想像しにくい小さな家に到着した。しかし、そことなく不思議な、いやヘンテコな雰囲気が溢れ出していた。
ノアは鍵を開け、ドアノブに手を回した。
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