第24話 宝石街6番地

風が吹き荒れる。今日はズボンを履いてきて良かったと思ってしまう。


あの真っ暗な穴は、底なしの暗闇では無く、中に小さな街が見えた。あまりに遠く見えにくいけど、カラフルと上品な光が見える。


小さな街が大きくなり、暗闇が完全に見えなくなる頃には、もう空の上であった。


――あ!落ちる。これは死んでしまう。


そう思いながらも街の美しさに目を逸らせずにいる。道の声は恐怖を帯びている。

この時間は僅か数秒に満たない時間であろう。しかし、まるで1本のアニメのように思えてしまう。


ノアがカーンと杖を地面に着く直前に鳴らす。そうするとふわふわなまくらのような、人をダメにするような感覚が、私を襲う。


尻もちをついたような姿勢になった。痛いと言いたいところだが、全くそのような感覚がなく、逆に心地よい感覚に驚いてしまう。



ノアの笑い声が聞こえる。きっと私の顔がおかしいから笑っているのだろう。


少しイラつきを感じると、もう1つの笑い声が聞こえた。横を見ると道も大笑いをしていた。


「大丈夫かい?」と何より優しい声音でノアがこちらに手を差し伸べる。その手を取りつつ、

「大丈夫も何もノアがなんの相談も話もないし落とすからでしょ。」

「はは、そうだね。夢乃は道くんを心底信用していると思ったから、そんなに怖がるとは思わなかった。」


なんて返答しにくいことを言う猫であろうか。

ノアは私のことを見透かして言っているのか。きっと何もかも知っているに違いない。

ノアはそういう猫なのだ。


私は確実にこの旅行を通して、それは穏やかな波のように揺らぎ始めている。

今は信頼している。別れるなんてもってのほかだ。この揺らぎだって心地の良い程度で目を潰れる。


しかし、その繊細な揺らぎはいつか大きな波になっていくだろう。

何より私と道には、自分達が1番の相手ではいつでもないのだ。それに対して怒ることも嫉妬することもない。それはいいことかも知れないが、ただ少し怖いと感じ初めてしまっている。


私と道の間にある見えない壁は、私の世界に道が来ても消えることは無い。

それが応えである。

私も道も口数が多い訳では無いから、不安もふくふくと膨れて、相反してその心地良さも同様に上がっている。


長いこと一緒にいるカップルでもないのだから、不思議な話である。


「何だこの街は!?」

道の声に意識戻す。

その世界はまるで宝石と19世紀ヨーロッパを融合した、それはそれは美しい街であった。

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