第23話 名は体を表す

「道くんにはこれがおすすめだ。方角を指でさし、決めなさい。」


ノアのその一言を発した後、杖を両手で持ち、美しい瞳を真っ直ぐに道の方へ向けた。


道ははずかしいのか少し視線を逸らし、右がいいか、それとも左がいいか、西、南、北、東様々な方角に思いを寄せて悩んでいた。


十二分に悩み終えると、こちらに視線を少し向け、私は道と目が合った。

突然のことに驚いてしまう。この世界でこんなに目を合わせたことは無い。その視線を逸らせずにいると、少しくすりと笑い、ノアの方へ視線を合わせた。


「方角はココだ、」

と道はある方向に指を立て、はっきりと記した。

そうするとノアはさすがと言わばかりの大声量で笑い、

「君が夢乃の恋人な理由が分かるよ。」

と余計な一言を道に告げ、再び笑い始めてしまった。


私は少しどころか本気なのか正気を疑ってしまう。道が指した場所は真下なのだ。

道は自ら落下という方法を選び、それはジェットコースターのように刺激を求めた一策だ。

一体どんな阿呆を考えればそうなるのか。


「下は無理なのか?」

「何私にかかれば朝飯前だ。きっと何よりも早く目的地に着くことが出来るのであろう。」

「ノア、道!正気なの?危ないし!?何よりどうやって下へ進むつもりなの?」

「俺はノアさんに方角を決めろと言われた。方法まで責任を持たない。」


道らしからぬ、発言と発想。

…この世界はなにやら悪影響を与えてしまうらしい。

道は神様も運命も前世も妖精も信じることはおろか、考えることさえしないような人であった。

彼は全てのものは自分で選択し、自分で得たものだと考えており、だからこそ大切にしているのだという。


そんな彼が根拠の無い、危険な道を選ぶなんておかしい。


「道どうしたの?」

「俺は大丈夫だよ。それより夢は俺が来て良かったか?」

「何を言って――。」

「夢乃、道くん!ちょっとここへ来て欲しい。」


ノアは私と道の会話中にどこかへ探索していたらしい。気づかなかった自分に驚いてしまう。


私と道が声が鳴る方へ行くと、ノアは目線を下におろし、杖を両手に持っていた。ノアの髭が内側に吹かれている。


「道くん、これがおそらく道くんが言っていた道だよ。」


ノアの見ている先に目線を合わせると、底には底が見えない、暗闇の穴があった。

人が5人ほど入ることが出来るのであろうか。

どれだけ見ても暗い穴に一松の不安を覚えると、自然とノアの袖を触れていた。


「私達の道さ。ここを降りれば街がある。」

「こんな道は歩けない。真っ暗にしか見えないわ。」

「よく見てご覧なさい。街が見えてくるよ。」

「本当だ!?これは一体どういう仕組みだ?。」

「はは、そんなつまらないことを考えるなんて変わった男だな。」

「だとしても怖いわ。こんな底が深いところ。」

「心配には及ばない。夢乃には私がいる。私が何からでも守って差し上げよう。これは約束では無い!遠い昔に結んだ契約だ、」


ノアの言葉は私に安心を与える。先程まで支配していた怖いは木っ端微塵に飛ばされてしまう。恐ろしい男、いや紳士である。


――契約とは一体なんのことであろう、


「さあ二人とも、風に身を任せ、降りるとしよう。」


ノアは杖をターンと大きな音を鳴らすと、眺めていた穴が、足の真下に会った。

私と道は十分とはしたない声で叫んでしまった。


「それより夢は俺が来てよかったのか」

その言葉が不思議と反復する。

私はノアが居ない先で、あの会話をどう続けていたのであろうか

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