第15話 ガラクタ惑星 向かう
「さあ、行こう。」
そう言うと、ノアの手は離れて、私の肩を抱いた。この毛並みは、なんて柔らかく、気持ちのいいだろうか。
そんな風に浮かれていられるのは、いまのうちであった。しかしワクワクの方が勝ってしまう。
「さぁ、走って、あの丘からジャンプをするんだ。行くよ。」
と言った瞬間、駆け出した。私もノアに合わせて、走った。丘なんてさっきあったかしら。
ノアは慣れた足付きで駆けて、丘の方へ向かった。私は自分に奮いをかけ、走る。
しかし丘は想像よりも近い位置に、そして低くあったため、すぐにジャンプの瞬間が現れた。私は怖気付き、体に力を失い欠ける。
それは初体験としてしょうがないことであろう。宙を飛べと言われただけたなのだから。
「夢乃、私を信じて飛びなさい。宙を飛行することは、宙を歩くことと一緒だ。」
その言葉はどんな恐怖よりも鋼のように強く、どんなお城よりも上品であった。それは私自身の心にも影響を与えた。
私はノアの言う通りに怯まず大きくジャンプした。しかし、その後は足をじたばたさせ、恐怖で悲鳴を上げていた。やはり怖いものは怖い。
ノアは笑いながら
「ここは歩くことも泳ぐことも出来る。自由に移動してみるといい。しかし着地の時はしっかり私に掴まるのだよ。初心者向けでは無いからね。」
と言う。
こちらからしてみれば何一つ笑い事では無い!
しかし、空を飛んでいるというより、息の出来る水の中を、自由自在に移動しているような浮遊感があった。私は小時間でマスターした。
そうなったからか、ノアが補助してくれていた手は遠くに無くなり、私は先程までの恐怖心という物が無くなっていた。
どちらかというと楽しくてしょうがない。
美しい宙や星、自由な行動に、イケメンな猫。
初めての体験は私を幼子に戻す。
「見てごらん。あの遠くに見えるのが、夢乃が行きたいと言った惑星だよ。」
その惑星はガラクタだらけだが、どこか懐かしさを感じてしまう。まるでタイムカプセルのようだ。
「さっきとはまるで違う場所みたい。」
「見る場所が変わったからね。先程よりも近くにいる。だから色々見えてきたんだろう。」
そんなに前に進んだつもりはないが、後ろを振り返ると、ノアと出会った惑星はもう見えなくなっていた。
「さぁ、夢乃は集中しないといけないよ。ここから第1関門なのだからね。」
「なに!?」
「銀色の光がこちらに向かって輝いているだろう。あれに触れるのはオススメしない。」
「痛いの?」
「いや、ただ少し痺れるだ。猫にとって静電気は大敵だ。」
ノアの指す銀色の光は、美しく、しかし飛んでもない速さで向かってきていた。数分で私たちはあの光の渦に巻き込まれるだろう。
痺れるのは嫌だ。小さい頃、関電をして、手を痛めたことがある。あの後は大変だった。
気をつけよう。
「あと、あの星たちにも注意だ。あの星の上を行かなければ、夢乃行きたい惑星へのルートが困難になる。」
ノアの指さした星というものは、ルビー色の惑星と、エメナルド色の星だった。とても綺麗と感嘆していた。
「分かった。」
ノアは腕を私に組むよう促すような仕草をした。ここからは危ないから掴まれということだろう。
ノアは背筋をピーンと伸ばし、杖を足元に下ろしている。私はノアのこの崩れない体幹を見習わなければならない。
私は慣れないが、腕に掴まる。
そうすると突然杖を上下に動かし、カーンと大きな声を鳴らした。
そしたら、突然、私とノアはとても高い位置に振り上げられていた。
私は急移動のより、衝撃に見応えてしまい、目を深く閉じると、下から風のようなものを感じ、目を開けた。
先程よりかなり上に行ったようだ。銀、青、ルビー、エメナルドが絶妙に絡まり、この世にはないであろう美しい世界を映し出していた。
なんて綺麗なのだろうか。このまま時間が流れなければいいのに。
「ノア、綺麗ね。」
「見惚れている場合では無いよ。君はこの高さを保たなければならない。足を動かして、宙を歩くんだ。」
私が感傷に浸ったているのに、それをノアは許さないらしい。
私はさっきまで、泳ぐようにして進んでいた。だから歩くということが何処か難しい。
しかし、ここでやらなければ、ノアが呆れてしまうだろう。私は目的を忘れ、不器用ながらに足を右と左に動かした。私たちにとって床がどれだけ大きな存在か理解することになる。
宙の歩行は難しく、ノアにしがみつきながら、何とか進んで行った。ノアはその度に小さく笑ながら、上手いと言っていた。
少しムカつくところがある。
ノアが危険視していたものは去り、後ろから振り返るとそれは美しい形状で行き去っていた。
思い出のように思える。
「さぁ、もう目と鼻の先さ。着陸するよ。」
目の前の惑星はガラクタという思い出の惑星だった。
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