第13話 異世界の取引

***




 屋敷を出た俺達は、俺が来た所と逆方向に向かって歩き出した。ラベルギン王国……だっけか?



リュウは俺を一目見て、魔法使いとしての興味が湧いたと言った。洗練された使い手なら、それだけで相手の力量を推し量れるというのは鉄板の能力だ。



けどまさか、この身体と中身が別物だっていうことには気づいていないだろう。先生の時とは違って、俺がこいつらと会うのは初めてのはずだから、直感的に何かを悟ったのかもしれない。



先生と初めて魔法の修業をした時も、何やら意味深なことを呟いていた気がしたし……。







―― そんなことよりも、ラベルギン王国に連れていかれた後の俺は一体どうのなるのだろうか。



今のところ思い浮かぶパターンは大きくわけて二通りで、一つは奴らの気が変わって丸焼きにされる。もう一つは奴らの部下としてこき使われる。



どの道ろくな事にならないのは確かだ。何かの拍子で俺の意識が消え、元のディラン・ラーシュがうっかり戻ってきたら、さぞかし驚くだろうな。



そういう意味では、元の世界の俺の体にはディランが入っている可能性も大いに有り得る。次目が覚めた時には手錠をかけられている、とかいうのは勘弁してほしいが……。

 



シノリアには悪い事をしたと、罪悪感に似た複雑な気持ちを抱く。もちろんゼロとミラにもだが、この先今日の出来事が一生のトラウマになってもおかしくないと思う。




先生なら心のケアもしてくれるとは思うけど、もしこの先何かの拍子で出会うようなことがあれば、俺に言い分の暇を与えることなくボコボコに殴ってきそうだ。あの人はきっとそういう人に違いない。









……それにしてもあとどれぐらい森の中を彷徨うことになるのだろう。地理の知識がない俺は皆目見当もつかない。




俺がリュウに問いかけようとした時だった。


 




「――そろそろいいかな」




 前を行くリュウがふと足を止め、こちらを向いた。だけどその眼差しは俺やコフではなく、それよりももっと奥を見据えているようで――



 リュウが指を大きく広げた手のひらをゆっくりと前にかざした。



そこに収まっているのは、暗い影を宿した瞳と同様、俺の身体ではない。




























「――ごめんね、ディラン君。記憶を消せる魔法使いがいるっていうの、嘘なんだ」


 













 その言葉の意味を理解するよりも早く、答えが五感を通して入ってきた。






 大きな音を立てて、何かが砕け散っていく。熱風が身体を包み込んだ。








 視界が真っ赤に染まる。








 ――屋敷が燃え崩れていた。


 

 


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