第8話:長女だから(side一葉

少し長いかもなので二分割、今回短め。続きは明日。


――――――


(side:一葉)


 ――――ちょっと、二人きりのデートに行って来るね。


 そう言って、日帰り旅行に行ったが最後、お父さんとお母さんは、血だらけになって帰ってきた。連絡を受けた時には、すでに二人とも手術室。助かる見込みは薄いといわれて、絶望した時のことは今でも鮮明に覚えている。


 優しくて、暖かくて、たまに鬱陶しいくらいに構って来る二人は、とても仲が良かった。お父さんは未だに甘えん坊なところがあったし、お母さんも口では嫌だと言いながらも、まんざらでもない様子。


 それを外でもやるような人たちだったから、一緒にいた私たち姉妹は恥ずかしくて仕方がなかった。けれど、それ以上にそんな二人が誇らしかった。


 私たちは幸せなんだぞって、自慢しているみたいで。


「パパ、ママ……!」


 喪服がなかったから、なるべく黒い服を着てもらっていた四花が、涙を堪えるように口を噛み締めていた。

 何も考えることができないまま、私はこれからどうすればいいのかさえもわからず、ぼうっとする頭で無意識に近くの葬儀屋さんに依頼していた。

 多分、何かしていたかったのだろうと今ではわかる。動いて、気を紛らわせたかったのだ。


 葬儀屋さん達にお葬式から埋骨までの流れを教えてもらい、その通りに手続きを済ませて翌々日。お葬式に呼ばれた人たちがお香をあげるのを、私たちは一番前の列から眺めていた。


 お香の仕方なんてわからないし、調べる気力もなかったから、見よう見まねだった。多分、順番はかなりぐちゃぐちゃだったと思うけれど、誰にも何も言われなかった。


 なにか言われたのは、お葬式の直後から。これからどうするの、ということ。


 なんでも、来年の4月からは一八歳からが成人と認められるらしいけれど、今のところは、二十歳にもなっていない私は未成年。祖父母は私が物心つく前に既に亡くなっていたから、遺産の相続者は私たち姉妹だけ。未成年は法定代理人を立てた上で、保護者としての後見人が必要とのことだった。


 叔母さんや叔父さんも、親権者として立候補していた。

「お金はあなた達がそれぞれ成人するまでは僕たちが管理するからね」

「私たちがうまく回してあげるからね」

 などと、言いながら。


 子供ながらに、下心しか見えない舌には、さぞかし脂が乗っているんだろうな、などと考えていた。それでも後見人は必要だろうと、妹達のお金も私が管理することを条件にだしてみれば、面白いくらいに手のひらを返して離れていった。

 笑える。


 それから、私たちをどうするか親戚同士の話し合いが始まったけれど、私たちは口すらも挟ませてはくれない。


 それはまるで、保健所で飼い主が決まるのを待つ子犬のよう。自分達のことなのに、私たちで決められない……そんな無力感と理不尽さを身にしみて味わっていた。


「保護者、紹介しようか?」


 そんな時、そう言ってきたのが千佳さんだった。

 千佳さんはどこかの社長さんになっていて、お金には困っていないことは知っている。お金は私の管理の上、保護者となる人に心当たりがある、とのことだった。


 なんでも、その人は千佳さんのお兄さんらしい。


 大きなマンションの管理人をしており、やっぱりお金にそう困っている人ではないようだ。曰く、第一印象が怖いだけの無害な男、らしい。


 千佳さんの紹介する人ならと、私たちは話し合って紹介してもらうことにした。男の人というのがネックだけれど、何かあれば千佳さんに言いつければいい。―――本当は、千佳さんに親権者になって欲しかったけれど、仕事で忙しいとのことで、やんわりと断られてしまった。


 法定代理人―――未成年の相続人には必須らしい―――は千佳さんの伝手で弁護士を紹介してもらい、諸々の手続きや家の整理を済ませると、私たちは千佳さんのお兄さんのマンションへと向かったのだった。

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