三碓一葉
第1話:自己紹介
このマンション『ララガーデン西ヶ原』は結構な大きさで、部屋数にして30部屋はある。
それも、各部屋が3-4人の家族が一緒に暮らせる程度の広さがあり、駅から徒歩30分と、立地的にもなかなか悪くないと思う。
それに築5年というだけあって、外観も綺麗なものである。
このマンションは、死んだ両親の遺産だ。
俺が就職した後、共働きだった両親が退職し、貯金と退職金でこのマンションを建てたらしい。
らしい、というのは、俺がブラック企業に働いていて、実家に顔を出す暇もなかったからだ。
たまに連絡をもらっていたけれど、俺が心配されるばかりで、両親の話などされなかったのだ。
写真とかないからわからないけれど、その時の俺は相当にひどい顔をしていたように思う。
不幸中の幸いというと言い方は悪いが……いや、本当に申し訳ないが、ブラック企業を辞めて早めの第二の人生を送れているから、我ながら幸せな日々を過ごしているといえるだろう。
過ごしていた、というべきか。
この子たちが現れるまでは。
「まずは自己紹介してもらっていいか」
俺は管理人室―――といっても、少し狭めのリビングに近い―――に案内した四人をソファに座らせると、名乗るように促した。
「チッ、きもちわりぃ目で見てくんなよ、おっさん」
「…………」
ギャルJKがなんか言っているが、俺はいい大人、細かいことにはつっこっまない。
「こら、双海、失礼でしょう」
「カズ姉、でも……」
「いいから、いい子にして……ごめんなさい、西ヶ原さん」
「別に気にしてない」
「そう言ってくださると、助かります」
ぺこり、と軽く頭を下げるシュシュの少女。
「改めて、私は三碓一葉といいます。長女で、R大の2年生です」
「へえ、R大。頭いいんだな」
「たまたま、補欠で合格しただけです」
コミュニケーションの一環で、なんとなく褒めてみるが、三碓……一葉は特に嬉しそうな様子は見せない。
社交辞令に慣れているのだろうか。
「カズ姉に色目使わないでくれない? キモイんですけど」
「双海!」
「ふん」
一葉が窘めるが、知らないと言わんばかりにそっぽを向くギャルJK、双海。
こいつはあれか、遅めの反抗期、ってやつか。
「本当にごめんなさい……この子は三碓双海。今年高校三年生になったのですが、人見知りする子で」
「別に気にしてないから、一葉さんも気にしないでくれると助かる」
牙むき出しなあたり、人見知りって玉じゃない気がするが、ここは置いておこう。
「…………三月、高三です」
タイミングを見計らっていたといわんばかりに、会話の途切れたところでぼそりと呟いたのは、双海の双子のほうだった。
眼に前髪がかかるくらい伸びていて、眼鏡の意味があるのかすらもわからない彼女、三月。
見た目通り、少し内気な性格らしい……つか、おっぱいでけえな、この子。
ちらり、と双海の方を見てみるが、本当に双子なのか疑わしいくらい、こっちはぺったんこに見える。
「あ?」
「な、なんでもない」
怖。
ちょっとチラ見しただけなのに、すっげえ睨まれたんですけど。
27歳童貞は JKに にらみつけられた!
こうかはばつぐんだ!
「うちは
続けざまに、元気よく手をあげて名乗るロリ。
あ、これだけでわかったわ。この子、めっちゃいい子。
「おう、よろしくな」
思わずにっこりしてしまう俺。
ロリとか言ってごめんよ。四花ちゃんね、ちぃおぼえた。
「このロリコンが! 四花に指一本触れてみろ、殺してやるからな」
ひぇ……。
「………双海?」
「うっ……で、でもカズ姉、こいつがっ!」
「双海」
「………ごめんなさい」
双海の名前を呼ぶの一葉。
彼女は口元こそ笑っているが、その目は全く笑ってなかった。
あの双海様が完全に委縮しておられる……この姉妹のカースト最上位は、一葉らしいな。
つまり、双海に虐められたら一葉にチクればいいということだな!
………俺、なさけなくね?
「あー……こほん」
俺は大人としての威厳を取り戻すべく、それっぽく咳をしてみる。
「多分知ってると思うが、一応……俺は西ヶ原宗助。一応、このマンションの経営者をやってる。細かいところは外に委託してるけどな」
流石に、この大きなマンションを一人で経営できるほど俺はできちゃいないし、何より手が足りない。
掃除や住民のトラブル解決くらいならまだしも、経営のノウハウはないから、その辺りは頼り切っているところがある。
もちろん、最終的には俺に決定権があるから、まったく勉強しない、というわけにもいかなかったが。
だが、これだけだと少し味気ない自己紹介になってしまうか。
「ちなみに彼女いない歴イコール年齢の27歳な」
「ぷっ」
俺の自虐的な自己紹介に唯一反応してくれたのは、三月だった。
四花ははてなマークを浮かべ、他二人は微妙な表情だった。
その顔は精神的につらいから、ぜひ笑ってほしかった。
「え、ええと……西ヶ原さんはまだお若いですから、出会いはいっぱいあると思いますよ?」
一葉さん、そのフォローは最もしちゃいけない精神攻撃だぞ。
まあ、俺は大人ができているから、心の中で泣くだけに留めるけどな?
ぐすん。
「ま、まあ、とにかく。俺はお前たちの父お……んん。保護者になるって話だったよな」
「は、はい。といっても、両親が貯金を残してくれていますから、金銭的に迷惑はかけるつもりはありません。ただ、やっぱり身元保証人になっていただければ、ありがたいです」
「………身元保証人、ねぇ」
ふーむ。
どうやら一葉は、色々と考えているらしい。
唐突に父親になってくれと言われてビビったが、一葉のようなしっかりした子がいるなら、まあ、保証人くらいにはなってやれるだろう。
流石に、気難しい年ごろの女の子の世話をしろ、なんて言われても、困り果てるしかないだろうし。
「うし、わかった。書類は作られちまってるし、裁判所から言われてるんじゃしかたねえ。最低限のことはする。それ以上は関わらない。それでいいか?」
「はい、それで構いません。本当に助かります」
「オッケ。それじゃ、細かいところ詰めていくか……と、その前に、まずは荷物をどうにかしないとな」
俺は財布から鍵を取り出すと、管理人室の隅にある金庫の前へと向かった。
6桁の暗証番号を入力して、電子ロックを解除。鍵を差し込むと、ガチャリ、と金庫が開いた。
そこから空き部屋―――105の鍵をとりだし、一葉に手渡す。
「明後日までに手続きを済ませるから、それからはここに住め。喜べ? 電子ロック付きの部屋な上に、家賃はタダだ。それまでは、俺が使ってる部屋を貸す……俺はこの管理人室で寝るから、安心してくれ」
「いいんですか?」
「外に止めるわけにもいかんだろ。金かかるし、女の子4人じゃ不安すぎる。これは『最低限』の範疇だ」
「いえ、そういうことではなく、家賃とか……」
「子供から金を巻き上げようとは思わねえよ。つーか、そこについては問題ない、絞れる奴がいるから」
「はあ……」
納得はいっていなさそうだが、それでも遠慮がちに鍵を受け取る一葉。
あまり気は進んでいないが、自分達の現状を正しく理解しているのだろう。受け取れるものは受け取る、といったところか。
「んじゃ、俺の部屋まで案内するから、ついてきてくれ。3日以内に、生活基盤は整えるぞ」
「ありがとうございます」
「にぃ、ありがとう!」
「…………」
「ふんっ」
もう、個性がはっきり分かれてる姉妹ですこと。
――――――
ちぃ、って知ってる人どれくらいいるんだろ(ちょびっツ)
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