第3話 イヌの親切はありがたいのですが

イヌが転がるように、うれしそうに駆けてきました。

親切のかたまりのように言いました。

「さーてと、君の名前は?」

「ああ、えーっと。それは、その・・・えーっと」


口ごもるネコにかぶせるようにイヌは言いました。

「いやいや、いろんな方がいますからね。ええ。ええ。いいんです。いいんです。

いろんな事情のある方がね。名前なんかいいんです。いいんですよ・・・。

ただ、ひとつ約束して下さいな。みんなで助け合いましょう。一人でいるのはつらいものです。みんなで助け合いましょう」

イヌは勢いよく右手を出しました。

「ささ、よろしく」

「あっと・・。えっと」

ネコはどうしていいのか分からず、ただもじもじしました。

「いやだなぁ、握手ですよ。手と手をつなぐのです」

「はあ」

おずおず出したネコの右手をぎゅっとイヌが強く握ったものですから「痛い!!」と思わずネコは叫んでしまいました。

「いやぁ、失礼。失礼」

その様子をいつのまにか集まってきた大勢のイヌ達が見守りながら、大笑いしました。


「取り合えず、かけっこなんかどうです」

「相撲しましょうか」

「狩りにいきましょうか」

「遠くまで散歩しましょうか」

「お互いに吠えっこはどうですか」

いろんなイヌが寄って来ては、ネコを元気づけようとしました。

ネコはそのたびにすまなそうな顔をして下を向きました。


そのうちイヌ達も少し飽きてきたのでしょう、だんだんネコを構わないようになってきました。

ネコがやっと一安心しているところでした。

一匹の黒いイヌが寄って来て言いました。

「お昼寝しましょうか」

「・・・そうですね」

ネコは初めて嬉しそうに答えました。

やっと自分のやりたいことが見つかったのです。

黒いイヌとネコは、草原に並んで寝転がりました。

「ああ、ここに来てよかったなぁ」

しみじみ思いながら、ネコはうつらうつら良い気持ちになりました。


その時でした。

突然空をつんざくように、パッパラパッパーと大きなラッパの音が二人の上に降ってきました。


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