第二章 蛇洞窟と戦う聖職者2
洞窟の出口を目指す道中で、先程から気に成っていた質問をスオウに聞いてみた。
「そう言えば今は普通に話せているけど、頭の中に言葉を送るやつはもうしないのか」
「こうして人間の姿に化けられれば声を出せるから、わざわざ使う必要も無いからのう。じゃが、使おうと思えば何時でも使えるぞ」
『このようにな』
スオウはこちらを見て口を閉じたまま、頭の中に直接声を響かせて来るが、最初に聞いた時よりも不快感や吐き気は感じなくなっていた。
慣れたのだろうか、まぁ、今は気にしなくてもいいか。
「まぁこのように相手の頭に直接声を届けても、お主以外の者達は意味の分からない言葉に聞こえるらしいのじゃがな。そのせいで助けて欲しいと訴えたら、ドワーフや人間共は何を勘違いしたのか供物やら生贄を捧げる様になったのじゃ。まぁ、そのお陰で食事には困る事は無かったのじゃが、話し相手が居ないと言うのは存外辛いものでな、お主が我の送る言葉を理解してくれた時は嬉しかったのだぞ」
スオウはそう言って笑顔をこちらに向けて来る。その姿が工房にいた時、家族が向けてくれていた笑顔に重なる。
「「ライドお兄ちゃん」」家族と過ごした記憶が少し蘇り、つい何時もの様に近くにあった頭を撫でてしまう。
「ライドよ、お主急に何を」
「あ、悪い。つい手が伸びてしまった」
いつの間にか撫でてしまった、スオウの頭に置いた手を退けようとすると。
「べ、別に止めろとは言って無いであろう。お、お主は友なのじゃからな、特別に許す。もっと撫でておれ」
そんなことを言われたので、手をそのままスオウの頭に置き直し、再び蛇肌を触った時の様なサラサラした触り心地の頭を撫で始める。
横に並び、片方の頭を撫でながら歩き進む二人組、周囲に人が居れば間違いなく奇異な目で見られたかもしれない。
今は人目が無くて、相手から同意も貰えているから良いけど、次またつい撫でてしまわない様に気を付けないと。取り締まりの厳しい場所だろ、下手したら捕まってしまうかもしれないからな。そんな決意を胸の内で固める。
「それで、なぜ急に我の頭を撫でだしたのか、教えてくれるのじゃろうな」スオウは満更でもない表情を浮かべて撫でられながら、そんなことを聞いて来る。
「えっと、そうだな。少し長くなるかもしれないが、それでも聞くか?」
「あぁ、構わないぞ。どのみち出口までもう暫く歩くからな。退屈凌ぎにはなるじゃろうし、このまま聞かせてくれ」そう言って来るものだから、スオウの頭を撫でて歩くまま、自身の過去に付いて話始める。
「実はさっきスオウの笑った時の表情を見ていたら家族の事を思い出してな…………」
そうして僕は、自分の出自や家族の事、どんな生活をしていたのか、旅を始める切っ掛けなんかを語った。
最初は全部話す気は無かったのだが、懐かしさからつい楽しくなって全部話してしまった。思えば自分の事に付いて誰かに話したのは、初めてだったかもしれない。
語り終えた事には、随分と心が落ち着いていた。まるで家族が殺されあの日からあった靄の様な何かが少しだけ晴れたかの様にも感じる。
忘れる事は無いし、忘れたいとも思わないけど、余計な肩の荷が降りた気分だ。
「…………と言う訳で、今こうして旅をしている途中でスオウと出会った訳だよ」
スオウは僕が話し始めてから、ずっと黙っていた。
「スオウ?聞いているのか」急に立ち止まったスオウに声を掛けて顔を覗き込むと、スオウは涙を流して静かに泣いていた。
「ライド、お主、お主にそのような事が、うぅ、うぅぅぅ。辛かったじゃろう。苦しかったじゃろう」
「え、まぁ、旅に出るまでは確かに辛かったけど」
「いいのじゃ。みなまで言わずとも良い。我も父やあの子が亡くなった時はショックで何も手が付かず自暴自棄になっていた事もある。だからお主の気持ち、同じとは言わぬが些かは解る。そういう時は存分に泣いて気を晴らすのじゃ。どれ、我の胸を貸してやるから、恥も外聞も気にせず気が済むまで泣くとよい」
そう言うスオウは僕の頭を両手で掴むと、グイっと強引に自身の胸へ引き寄せる。
ふにっと柔らかい感触がすると同時に、何かこの世のものとは思えない様な巨大な何かに包まれているような。そんな感覚に襲われる。
本能はその巨大な何かから今すぐ離れる事を強く訴え掛けて来るが、感情がそれを拒否する。
「さぁ、我慢せずに思う存分泣くのじゃ」その言葉を聞いた瞬間、今まで溜め込んで来たものが一気に溢れ出てくる。
「あ、あっ、うぁぁ、あぁぁぁぁ………」泣いた、今までに無い程わんわん泣き続けた。
思えばこんなに盛大に泣いた事なんて今まであっただろうか。いや、無い。
今まで一度も泣いた事は無かった。自然と涙が零れた事はあったが、感情を表に出して泣いた事なんて、造られてから今まで無かったのだ。家族を殺されたあの日でさえ泣くことは無かった。
「…………知らなかったよ。泣くことでこれ程に気持ち落ち着く様になるなんて」
盛大に泣いたお陰か、先程スオウに語った時よりも、すっきりした気持ちになる。抱えていた靄が完全に晴れた気分だ。
「ありがとう。スオウ。お陰でようやく家族の死が受け入れられた気分だよ」目元を赤く晴らしてお礼を言うと、スオウは何故だか顔を赤らめて照れた様子を見せる。
「こ、このくらいの事で、一々礼を言わんでも良いわ。我らはもう友なのじゃぞ。友が困っていれば助けていと思うのは当然の事であろう。しかし、お主、今まで一度も泣いた事が無い等と言って居ったが、よく今まで耐えられたのう。普通の人間で有れば精神が病んでも、おかしく無かったと思うのじゃが」
「まぁ、今までは我慢する事の方が多かったからな。それに長男が弟や妹の前でみっともない姿を見せる訳には、いかないだろ。だから無意識に泣くのも我慢してたのかもしれないけど」
「なら、これから先、泣きたく成った際には我を頼るが良い。この程度の事で良いのなら何度でも付き合ってやるぞ」
「スオウ……ありがとな。でも流石にそう何度も世話になる気は無いからな」
さっき知り合ったばかりなのに、こうして話しているだけで、スオウの存在が自分に取って随分大きなものに成って行く気がする。さっき人の良さそうなドワーフに騙されたばかりなのに、懲りて無いと言うか。もしかして思っている以上に僕って単純なのかもしれない。
「改めてお礼を言わせてくれ、ありがとな。スオウ。お前と出会えていなかったらずっと家族の死としっかり向き合えていなかったと思う」
「な、なんだか、そう面と向かって言われると照れくさいのう。じゃが、まぁ、素直に感謝されると言うのも偶には良いものじゃな」スオウは照れた顔でそう言うと片手を差し出して来る。
「これは?」何をしているのか尋ねると、スオウは首を傾げた。
「握手じゃよ、握手。相手の手を握り合い友好を深める行為じゃ。まさかこの世界では握手は存在しない行為なのか」
「いや、握手自体は知っているけど、なんで今しようとするのかなと思って」
「?変な事を言うやつじゃの、我らは既にお互いを助けあった仲ではないか。ならば、さらなる友好を深める為に握手を交わすのは当然のことであろう」
自信満々にそう言って更にこちらへ手を伸ばして来るスオウ。今まで友達がいなかったのに、なんで友達と仲を深める行為は知っているんだとは、あえて言わず。スオウの望み通りに差し出して来た手を握り返す。
握手を交わした際にスオウが再び笑みを浮かべて「ぐへへ」と口にした。まったく、嬉しそうでなによりだよ。
スオウが握手に満足し終えたところで、再び洞窟の出口を目指して歩みを進める。
* * *
再び歩き出してから暫く進んだ所で、薄暗い洞窟を照らす明かりが見えて、外に通じている出入口が先にある事に気付いた所で、ピタっとスオウが歩みを止める。
「どうしたんだ?」出入口が目視で確認出来る距離で立ち止まり、期待と不安の入り混じったような妙な表情をしているスオウにそう尋ねる。
スオウは僕の問いには答えず、恐る恐る目の前に手を伸ばした。
そして、まるで見えない壁でも触ろうとしているかの様に、伸ばした手を上下左右に動かして、最後にホッと息を吐いて胸を撫で下ろす。
「予想通り封印は完全に解けたようじゃな」
「封印って、さっき壊した魔法陣のことか?」
「あぁ、そうじゃ。お主があの魔法陣を壊す前までは、この辺りに見えない壁が存在してのう。今、その壁なくなって居るのか確かめたのじゃよ」
「じゃあ、今まではその壁のせいで外に出られなかったんだな」
「確かに壁が障害には成っていたのも確かじゃが、一番の問題はあの魔法陣で我の能力を殆ど封じられていた事の方じゃよ。殆どの能力を封じられた我はただ眷属を使役出来る程度の蛇に成り
下がっておったからのう。壁が無かろうと封印を解くまでの間は洞窟での生活を余儀なくされて、おったじゃろうな」
壁が無い事を確認し終えたスオウは再び出口に向かい歩き出した。
封印されていたスオウのような蛇が程度と呼ばれる様な世界。考えるだけで恐ろしいな異世界とやらはとか思いながら後に付いて行く。
* * *
「…………そっか、眷属に色々と調べさせたから、魔法陣を破壊する方法を知っていたのか」
「うむ。だが肝心の我を封印した者の特徴もまだ分からなくてのう。可能性だけなら幾つか心当たりがあるのじゃがな。どちらにせよ、いずれ必ず見つけて報復しようと……、
おや、もう夕暮れのようじゃな」
スオウと再び会話をしながら歩いていると、ようやく洞窟の外に出れた。
だが、既に日は沈み掛けて、辺りは薄暗く成り始めている。
丁度、夜行性の魔物達が活動を初め出した時間らしく、洞窟の近くに在る森の木々は怪しく揺れている、それ程離れて居ない距離に大型の魔物でも居るのだろうか。
「まぁ、結構洞窟の中で話し込んじゃって居たからな、夜に成れば流石に森の中を進むのは危険だし、折角外に出たばかりだけど一旦引き返して朝まで待つか?」スオウにそう問いかけたが、スオウは森の奥を睨みつけてその場を動こうとしなかった。
「確かに夜中の森で一晩過ごすのは危険じゃし、洞窟に戻る方が安全かもしれぬが、今は止めておいた方が良いぞ」スオウはそう言うと、指を笛に見立てて吹き始める。
すると、ものの数分と経たずにスオウの周囲に森の奥からやって来た大量の蛇が集まって来た。先程話していた眷属なのだろうか。
最後の一匹が足元に辿り着く頃には、スオウは険しい表情を浮辺ていた。
「今は、これだけしか集まらんか」スオウは集まった百匹は居ようかという数の蛇を見てそう口にし、再び森の奥を睨み警戒の体勢に入る。
そして、カツカツと森の奥から靴音が聞こえて来た。
スオウが警戒しているのは、恐らくこの靴音の主なのだろう。
音が近付くにつれてスオウと蛇達が警戒を強める。それを見て僕も思わず身構える。
大丈夫落ち着け、心の中でそう唱え、何が出てきても対処出来る様に頭の中で武器を創り出す準備を始める。
カツカツと靴音が更に近付き、近くにある木々がカサカサと葉を揺らすと、草木を掻き分けて出て来た靴音の主が、ようやくその正体を現した。
夕暮れの空、未だ僅かに残る日の光が姿を現した人物を照らし出す。
全身を黒を基調とした装束で身を包む人間の女性。首元には十字の形をした銀の飾りを下げている。幼さの残る童顔に似合わない大人びた雰囲気を漂わせた彼女は驚いた様な表情を見せて立っていた。
「あれ?貴方は今朝に合った……。そう、そう言う事だったのね。貴方がそこの蛇と手を組んでいた失踪事件の黒幕だった訳ですね」黒い装束を纏う彼女は何かを納得した様な顔をして頷いている。
この声、それにあの顔、間違い無い。あの人は村の宿屋に入った際に知り合ったレイナだ。
しかし、なんでレイナがこんな場所に?他にも幾つか疑問はあるが、確かな事が一つある。それは、先程までしていた靴音の主が目の前に居るレイナだったと言う事だ。
「失踪事件?何の話しだ」まず、どうしてこんな森の中に居るのか、相手の目的を知る為にそう尋ねたのだが。
「とぼけているの?それとも本当に知らない?いいえ、どちらでも構わないは、お兄様なら、まず疑わしきは全て捕らえるもの。事件を起こした犯人かどうかは無力化してから聞けば良いわよね」相手は聞く耳を持って居ないらしかった。
レイナは自身の首飾りを手に握り、短く何かを呟いた瞬間、彼女の正面に突如槍が出現した。
レイナは出現した槍を掴むと、すぐさまこちらに接近して来る。
時間にすれば数秒も経たなかっただろう。あっという間に距離を詰められ、目の前に彼女の掴んだ槍の鉾先が迫っていた。
「……くっ!」
咄嗟に剣を創り出して槍先を弾く。キーンと金属のぶつかる音が周囲に響き、レイナの持つ槍の軌道を何とか逸らして一撃目を防ぐ。
僕の手に握られている創り出した剣を見たレイナは僅かに驚いた表情を見せるも、瞬時に切り替え、直ぐに二撃、三撃と立て続けに攻撃を繰り出して来る。
一振り、二振りと何とか剣で弾き返すが、レイナの攻撃は一撃ごとに繰り出される攻撃の重さが増していき、人間離れした力に翻弄されて押され始める
対人戦の経験が無いに等しいとは言え、狩りで培った経験のお陰で何とか直撃しない様に防ぐ事は出来ているものの、レイナの隙を見せない洗練された動きに付いて行くだけでやっとだ。
そして数度目の打ち合いで攻撃を弾き切れずに、重心をずらされバランスを崩してしまった。そこに一撃、こちらの決定的な隙を見逃すまいと、腹部に槍の柄を叩きつけられる。
グシャリと何かが潰れる音が聞こえた。強烈な痛みと共に身体がふわりと持ち上がり、洞窟の入口付近まで飛ばされ、地面に叩きつけられる。
最後の悪あがきとして、地面に叩きつけられる直前に手元の剣をレイナに向けて投げるが槍で簡単に弾かれた。だが、少しくらいは隙を作れたらしい。
レイナが剣を弾くと同時に背後へ回り込んだスオウが、レイナの背中を攻撃する。
「しまっ…」一瞬反応に遅れたらしく、レイナはスオウからの一撃をもろに喰らう。
攻撃により、よろけたレイナの動き封じるかの様に、地面に居た蛇達が一斉に手足に絡みつき、槍を奪い取った。そして、スオウは仰向けに倒れ伏す形で転がるレイナに止めを刺そうとする。
「待った。待ってくれスオウ。まだ殺さないでくれ」手を槍の様に形作り、今まさにレイナの心臓を貫こうとしているスオウの手を止める様にそう叫んだ。
スオウは僕の声を耳にして、ピタっとレイナの身体に触れる直前で動きを止め、怪訝な顔を向けて来る。
「何故止める。こ奴はお主を攻撃して来たのだぞ。それにこ奴の所属は教会の騎士団じゃぞ。世界存続の名の元に罪人と認定した者を殺すまで追いかけて来る様な連中じゃ。此処で生かしておけば、我らはこの先一生追われる身に成るやもしれんのじゃぞ」
「何を言うのです。それではまるで我々が無差別で処刑しているみたいではないですか。罪状を明らかにするまでは流石に処刑はしません。精々拷問する程度です。それに裁きの際に罪が無い事さえ証明されれば……」
「えぇい、貴様は黙って居れ。今は我がライドと話して居るところじゃろうが」
「いいえ、黙りません。貴方は我々の活動を勘違いなさっているようですので、言わせてもらいますが……」
二人が言い争って居る中、腹部の痛みに耐えながら身体を持ち上げて立ち上がる。立ち上がった際にグシャリとか嫌な音が聞こえたから、内臓の一部がやられたかもしれない。これは丸一日コースだろうなとか考えながら二人の元に歩みよる。
正直、今すぐ横に成って休みたいところではあるのだが、その前に聞きたい事があるのだ。それを聞く前に倒れて寝たりすれば、スオウがレイナに止めを刺しかねない。
「……はぁ、はぁ、はぁ」口の中で血の味がする中で、ふら付きつつもようやく二人の元に辿り着く。
「レイナに幾つか聞きたい事が有るんだ。まず、どうして急に襲って来たのか、教えてくれないか」痛みで遠退きそうな意識を手放さないように我慢しながら手短に聞けるように一番聞きたい質問を尋ねる。
「貴方、かなり辛そうですけど大丈夫ですか?」レイナが心配そうな顔でそう言った。
一瞬、人の内臓を潰しておいて、どの口がそれを言うんだとか怒鳴り声を上げてしまいそうに成った。
「……っ……、気にしなくて良いから、教えてくれないか」
「…………」
今度は強い口調で聞くと、レイナは黙り込んで考える素振りを見せる。
「ライドよ、やはり今すぐにでもこ奴の行きの根を止めないか。幾ら待った所でどうせ喋らんじゃろ。それに、もしかしたら、時間を稼いで応援が到着するのを待っているやもしれんぞ」
「スオウ、此処で殺すのはダメだ。もしかしたら、レイナは誤解しているだけかもしれないだろ。誤解かどうかも分からない今殺したら、その騎士団?に追われず済んだかもしれないのに、本当に一生追われる身に成りかねないだろ」
「む、確かにそうだとしたら後が面倒そうじゃな。おい貴様、レイナと言ったか。我々の餌に成りたく無ければ早くライドの質問に答えろ」スオウは手元に何匹かの蛇を乗せて、わざわざ僕の隣で見せびらかしてから、そう口にした。
どうでも良いけど、その我々ってのに僕も入っているのだろうか。一応僕の身体は大部分が人間のものだって、伝えていたと思うのだけど。
「…………良いでしょう。当初予定していた立場とは逆転していますが、私の質問にも答えて頂けるのでしたら、貴方の質問にも答えましょう。唯、その前に私の身体を舐めまわす様に這っている、この蛇達をどうにかしてくれませんか。何匹か服の中に入ろうとしているのを防いでいるのですが、この状態のままではとてもまともな話など出来そうにありませんので」
それを聞いたスオウは呆れた様な顔をして、服に潜り込もうとしていた蛇達を摘まみ、離れた所で蛇相手に説教を始めた。
「貴様ら、我の眷属で在りながら、人間の女に発情しおって、我が恥をかいてしまったじゃろうが。大体貴様らは……」人の言葉で話して意味が通じているのかは分からないが、怒られているのは分かっているのか、蛇達はしゅんと落ち込んでいる様に見える。
そもそも、蛇が人間相手に発情するとか有るのだろうか、まぁ今はそんな事を気にしても仕方無いか。
離れた所で説教しているスオウから視線を逸らし、改めてレイナの方に向き直る。
レイナは手足の自由を最低限、蛇で拘束された状態で座らせている。
「流石に完全に拘束を解くわけにもいかないからな、それで辛抱してくれ」レイナは手足が動かない事には不服そうな表情を浮かべているが、少し考える仕草の後に襲って来た経緯に付いて語り出す。
「私はある調査で、この付近にある村を訪れたのです。その調査と言うのが、ある村に訪れた旅人が失踪して居るというものでして、最初は噂程度だったのですが。ここ数年に失踪届が出る人数が急増した事が分かり、世界の均衡を保つ事を掲げる我々教会の方も見過ごす事が出来無く成りましたので、私が調査に派遣されたのです」
村に訪れた旅人の失踪……あれ、もしかして。ふと、村で人の良さそうなドワーフに騙された時の事が頭に浮かんだ。
「村に訪れた後、私は失踪が村人の犯行である事を疑って調査して居た際に、丁度、貴方が村を訪れたのです。今まで失踪した人物は旅人の方が多いという事が分かっていましたので、巡回シスターの私よりも貴方が村人に襲われる可能性が高いと思い、少しの間貴方の後を追っていたのです。ですが途中で村人の一人が襲い掛かって来たので、今回の犠牲者に選ばれたのが私なのだと思っていたのですよ。まぁ、私を襲て来た村人は当然返り討ちにして、襲ってきた理由を吐かせましたが」
ん?今、吐かせたって言ったのか。もしかして拷問とかする人なのだろうか。
「村人から得た情報では、ある日村に角の生えた男が訪れて、その男が近くの洞窟に蛇が住み着いたから、生贄を与え無ければ村に災いが訪れると言ったそうです。当初は男の言葉に誰も耳を貸しませんでしたが、本当に災いが起きてしまったらしく、男の言葉に従い、洞窟に居る蛇に動物を捧げたところ、災いが止んだそうです。ですが暫くした後、再び災いが訪れた為、村人は定期的に生贄を用意する様になったのだとか」
ふむふむ、それでスオウに生贄を捧げる様に成ったのか。
「ですが、ある日。角の生えた男が再び村に現れて、動物では無く人間を供物に捧げる様に言われたそうです。当時男の話を信じ切っていた村人達は村に訪れた旅人を蛇への生贄に捧げる様に成ったそうで、それを今も続けて失踪事件に成った訳ですよ」
角の生えた人物……魔族か亜人種なのだろうか。
「私は先程までの話を元に事実を確認する為に、事件に関与したと思われる村人全てを一ヶ所に隔離する事にしました。まさか全員とは思いませんでしたが。ですが、話に上がった角の生えた男は偶にしか村に訪れないらしいので、先に蛇の方を確認しようと、ここまで来たのです」
ふむふむ、確かに今までの話だと蛇が食料を確保する為に角の生えた男と協力していると思われてもおかしな事ではないか。
「そして、洞窟に到着すると貴方がそこの蛇と共に肩を並べて親しそうにしている姿を発見して、貴方こそが角の生えた男なのだと思い無力化しようとしたのです」
「え、もしかしてスオウと一緒に居たから、問答無用で襲われたって事なのか」
「貴方が抵抗さえしなければ、今頃そこの蛇共々捕まえて、拷問もとい事情聴取をしていたは筈なのですが」
「ふん、貴様が我らを捕らえる等と大口を良くも言えたものよな。こうもあっさりと我らに捕まっておきながら、どこからその自信が湧いて出てくるのじゃか」
説教を終えたらしいスオウは、呆れた様子でそのように口にした。そう言えば今のスオウは変化して外見は限り無く人間に近いんだけどなんでレイナは一目で正体が分かったんだろう。
不思議に思ってレイナに尋ねて見ると、レイナは両手を縛られたまま指を立てて自身の左目を指差す。
「私は聖職者、それも教会騎士団の所属ですよ。真の姿を見る事が出来るこの目を与えられた私達は、たとえ人の姿に化けた者でも、その正体が何で在ったのかを知る事が出来ますので」そう言いながら見開かれたレイナの左目には、ぼんやりと魔法陣の様なものが浮かび上がって居るが見える。
聖職者が持っているというのは驚きだが、俗に言う魔眼と言うものなのだろう。
それなら、僕の事をキメラだと最初に会った時から気付かれて居たのだろうかと、そんな事を
考えて居ると「まぁ、例外はあるようですが」レイナが僕の耳を見ながらぼそりと何かを呟いていた。
「ライドよ、火を起こすのを手伝ってくれ」スオウに呼ばれ振り向くと、眷属の蛇達が森から枝や木の実を拾って来て、一ヶ所に集めているのが目に入る。
話込んでいて気付かなかったが、改めて周囲を見回すと辺りは、すっかり暗く成って日が既に沈んで星の光が差していた。
まだ、幾つか聞きたい事はあるが、夜は冷えるので先に火を起こす事を決めて立ち上がる。
「そこで少し待っていてくれ。先に火を起こして来る」レイナにそう言い残して、鞄から着火剤を取り出して、立ち上がる。
その場を立ち去る際にレイナが「予定とは違いましたが……」と何かを呟いていた。
レイナの呟きが少し気になりはしたものの、スオウに急かされたので火を起こしに向かう。
腹部の痛みを我慢している為、思ったより力が入らず火を起こすのに時間が掛かってしまったが、何とか暖の用意が終わり、レイナの居る方向に振り返ると、そこにレイナの姿は無く、手足を拘束していた蛇達が気を失い倒れていた。
「に、逃げられた」急いで取り上げた槍の存在を確認するが、木に立て掛けたままだった。
食事の用意をしていたスオウも異変に気付き、逃げた方向や場所の判る痕跡を探しが見当たらず。既に夜だった為、それ以上の捜索を諦める。
レイナが槍を取り替えしに奇襲を仕掛けて来る事を考え、後退で眠りに付く事にしたが、結局朝を迎えるまでの間にレイナが現れる事は無かった。
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