Another war/Peace Liberty

水鏡宰

Episode/one

「報いを受けろ」

 僕は自分の吐いた台詞に思わず胸中で苦笑する。何を偉そうに。バットマンにでもなったつもりでいるのか。

 アラブの少年兵が額から一筋の血を流しながら、僕が構えたM4ライフルの銃口の先端に装着された消音機をじっと見据えている。

 少年兵といっても、年は高校生くらいだった。褐色の肌にボロボロのポロシャツ姿のタリバン兵士で、弾薬が尽きたカラシニコフを両手で抱え込むようにして疼くまっている。

 僕はトリガーを躊躇無く引いた。

 彼がタリバンだから。

 合衆国を混乱に陥れた武装勢力の一部だから。

 カシュッという消音機独特の乾いた銃声と5.56×45mmNATO弾の薬莢が地面に転がる音がして、それと同時に少年兵は倒れた。

 あくまで僕は平常心だった。軍学校でのマニュアル通りだ。呼吸も脈拍も安定している。

「気にするこたぁねぇよ」

 背後から声がして振り向くと、砂でできた家から僕と同じUSMCのマーク・エリオットが出てきた。

「気にしてなんかない」

 僕はM4をセーフティ・ポジションにして肩に担ぐと吐き捨てるように言った。

「ここじゃ皆が合衆国の敵だ。テロリストの巣窟にいるんだ。こんな野郎、いくら殺ったって主はお許しになられるさ」

 そうだ。マークの言う通り、僕はテロリストを殲滅する為にこんな地球の裏側までやって来たんだ。少年兵がなんだ、タリバンに違いないんだ。女子供を平気で犯し、惨殺するヒトデナシなんだ。

 それに、こいつらは姉さんを犯し、殺したんだ。

「分かってるよマーク。ミッション・コンプリート。基地に戻って冷たいコーラでも飲もう」

 僕はマークと二人で砂埃にまみれながら、アフガンの荒野を歩いた。どこかウェスタンの白黒フィルム映画に似た風景だな、と思ったが、僕らは海兵隊。ガンマンでもカウボーイでもない、タリバンという名のインディアンを虐殺するためにやって来た騎兵隊だった。


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Another war/Peace Liberty 水鏡宰 @winter-mute

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