田舎者と、密かな食べ方


 ドロドロのかき揚げを食べる習慣は、カップ麺は、全ての具材とスープを入れて、お湯を注ぐものだと小さい時から思っていたが、高校を卒業して上京した時に覆された。


 それを、友人から指摘された。


「サクサクしているから揚げなんだ。 先に揚げを入れたら、ドロドロで揚げの旨さがなくなるだろう。 揚げは、食べる直前に入れるものだよ」


 言われた、その言葉の裏には、『田舎者!』と、いう言葉が覆いかぶさっているように思えた。


 青梅街道を「あおうめかいどう」と、言った時のような感覚に襲われた。


 その後、友人の一言は、この人気のロングセラー商品を、開発者の意図とは別の方法で食べているのだと、認識するようになった。




 子供の頃、天ぷらを食べすぎて、口の中を切ってしまったことがあり、それ以来、硬い天ぷらや揚げは、好きになれない。


 緑のたぬきのかき揚げが柔らかくなり、固くない揚げがとても心地よく感じていたが、その一言でかき消されて後は、1人の時にしか、この食べ方は行わない。


 誰にも邪魔され無い時の作り方、硬いかき揚げを嫌う私の、わずかな反抗がなった、至高の時間なのだ。




 この食べ方を好む人が、私の知る限りでは、誰も居ないのは、可哀想な人を見る目で見られいると思えたからだ。


 友人に言われた一言が、社会人になっても人前で、柔らかいかき揚げにして食べることはない。


 この食べ方は、私、1人の時だけの食べ方だと思うと、密かに、『開発者泣かせの食べ方』と呼んだ。




 友人に、緑のたぬきの食べ方を指摘された後は、蓋を開けた後にスープだけを入れて、お湯を入れる。


 かき揚げは、蓋の上に置いて、重し代わりに使うようにする。


 3分が過ぎ、蓋を開いて、かき揚げをそばの上に乗せるが、すぐにかき揚げを食べることはせず、蕎麦を先に食べる。


 時々、箸でかき揚げを押し出汁を浸み込まると同時に、かき揚げの硬さを確認しつつ蕎麦を啜る。


 そして、ドロドロになったかき揚げを、蕎麦に絡めて食べる。


(これなら、文句はないだろう)


 そう思いながら、緑のたぬきを食べるのだ。

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