第8章 血を継ぐ者たち
第1話
――警備署内。
見かけによらず人情はあるが
何やら外が騒がしい。
様子を見れないかと扉に空いた窓より、赤い髪の少年は格子から室外を覗いた。
ひらりと
意味ありげに口角を上げた当事者が声を掛けた。
「どうして――
我が国のトップのお出ましに、部屋の外にいるはずのデクリオもさすがに口が出せないようで。署内にいる警備員たちのどよめく声が聞こえてくるが、お調子者の彼は一言も発することを許されていなかった。
自分の名を呼ぶ鋭い眼光に、見覚えがある。国のみならず、魔法学校を治める人だ。もちろん、何度も目にしたことはあった。けれど、マルクが感じている既視感はそれとは違うもので。
途切れ途切れの記憶を
うかがうように上目で大指導主を見ると、笑っていない冷徹な炎を宿した瞳に射抜かれるような気がした。無実の罪で捕まった自分を助けに来てくれたわけではないのだと、彼から発せられる殺気の入り混じった魔力に言葉がでない。
「
突然聞こえてきた聞き馴染みのない渋い声色に、マルクは頭痛で俯いていた頭を上げる。
「司法高官が
「取調べ?……ハッ、まさか」
「マルク・クレルは
「フン――何を
「どういう意味でしょう?」
「そのままの意味だよ、彼は無実だ。今回襲われたルグレの娘は怪我もなく無事に保護されている。その警備隊員が証人だ……マルク・クレルは彼女へなんの危害も加えていなかった、とね」
「――ああ、それは良かった。可愛い生徒が罪人だと言われ、私も心底心配していたのです。けれど困りましたね。私の部下の件はどう説明するおつもりでしょう?……エイダはなくてはならない存在なのです。私のあとを継いで、次期大指導主に選抜する予定でしたのに」
「
……とんでもないことになってしまった。
自分がはっきりと覚えていないせいで、王に次いで国を統治する立場であるトップふたりが、まさか自分の処遇に対して駆け引きをしている場面を目撃してしまうなんて思ってもみなかった少年は、身体中に脂汗をかきながら室内に待機していた一人の警備隊を見やる。
「外に出ようなどと、お考えなさいませぬよう」
てっきり会話すらしてもらえないかと思っていたが、彼はこちらを向き、普通に話しかけてきた。
「この部屋にいる限り、大指導主様であれ誰であれ
「守るって……ネリちゃんならまだしも、守られるべき理由なんてボクには」
「全ては大指導主――いえ、反国家組織マルバノの指導者を
「反国家……マル、バノって……そ、それじゃあ大指導主様はずっと国民を騙していたんですか? テロに等しいことでもする組織に加担というか、主導者として席を置いていたなんて、そんなの」
「ここだけの話、前大指導主様もどこかに幽閉されているもしくは殺されたのではと噂されていますよ。
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