第5話 捜索隊

そう、あれから数ヶ月。

見つからない。

どれだけ探索範囲を広げた?

探索範囲は今日も広がった。


「・・・見つかりはしねぇ。俺達が無能だからだ」


その言葉に苛立った一人が殴り掛かるが、すぐに止めた。

涙は出ない。

その代わりにただ重くコンクリートの壁に衝撃が迸る。

皆、彼と同じ思いだったのだ。


暗いカタパルトに光が灯る。

カタパルトに機体を乗せ、アームが機体上部にあるシューティングラックに接続され、空間の加速が開始される。

カタパルトの中央が奥へ行き、ランプが黄色に点灯する。

二つ目でアームが離れた。

三つ目のランプが緑色に光り、コックピットでブザー音が響く。

カタパルト外周の空間が前方に跳ねるのと共に機体が一瞬で巡航速度に達する。


「メテオ隊発進終了。捜索範囲に向かう」


[管制塔了解]


スピーカーから出された声には元気が無かった。

今日で何日目なんだろう?

生きているのだろうか?

そんな事しか、考えられなかった。


巡航速度で捜索範囲を飛んでいる時、今まで聞いた事の無い音楽がヘルメットから流れた。

HUDに表示された分隊の表示から3番機だとわかった。

止めようかと思ったが、静かなほうよりはマシだ。

ただ、音楽の音量は上げて欲しいと思った。


「もう少し音量を上げてくれ」


「・・・ん」


そして丁度良い音量になり、感情パラメーターが安定した所に来たその時だった。


「・・・え?ナッ!?発見!発見した!」


「なんだと!?」


突然4番機からデータが送られてきた。

画像データだ。

パケットを全部受け取り、暗号処理をして画像を拡大する。

1.90、2.48

そこには、ボスの姿があった。


「管制塔!こちらメテオ1!ボスを発見!繰り返す!ボスを発見した!」


[なんですって!?]


「ボスを発見したと言っている!」


[わ、わかってるわよ!キメラ隊を送ります。到着時刻は01:42]


現在の時刻は01:39。

距離を考えると結構速い。


「01:42了解!」


すぐにホバーモードで地上に降下した。

ボスの驚く顔がメモリーに刻まれる。


「ボス!無事でしたか・・・」


「君達は?」


ヘルメットのHUDを上に上げて顔を見せる。


「進特科捜索実働隊2課所属のメテオ隊隊長のオリザです」


「な、なるほど」


「お会い出来て光栄です」


握手を求めて手を差し出すと、すぐに手を握り返してくれた。

その暖かさ、感触の一つ一つがメモリーに刻まれた。

困惑したボスの顔もメモリーに刻まれる。

この言葉が言える時が来た事に感動し、感情パラメーターがずっと上昇しっぱなしだ。

しかし、すぐに感情パラメーターは無理矢理平常へと戻される。

そうだ。今は任務中だったのだ。


「もう少ししたら運び屋が来ます」


「運び屋?」


ああ、そうだろう。

困惑するに決まってる。

それは二つ名だ。

まあ、嫌味を言われたくはないので本人の口から言わせよう。


01:41


それは予定よりも早く到着し、待ちきれなかった部隊が着陸すらしていないのに降り立った。

そして、輸送機からゆったりと降り立った筋肉が自慢の大男がボスへと近づく。

身長は驚異の2.4mだ。


「お会い出来て光栄です。オリザもありがとな」


「どういたしまして」


その巨体からは想像すら出来ない優しい声で感謝を伝える。

握手も優しく握っている。


「第3航空輸送兵団、キメラ隊隊長のガンツです。これから安全に自国へと送ります。」


「・・・そうか、わかった。早速送ってくれ」


「わかりました。撤収!周囲警戒怠るな!」


「「「アイアー!」」」


すぐに撤収を開始したキメラ隊よりも早くメテオ隊が上空に上がる。

そして、突然の熱源接近警報が鳴り響き、一機が叩き落とされた。


「エンゲージ!!マスターアーム:ON、防護システムはパッシブじゃなくて!アクティブのオート!各機散開!迎撃しろ!」


「了解!」


墜落したのは3番機。

熱源接近警報の装置とチャフ・フレア射出機を連動させ、距離を設定する。

これで自動的にチャフ・フレアは放出され、戦闘に集中できる。

しかし、射出間までは設定できない為。元々設定していた射出感覚(1番機0.13、2番機0.10、4番機0.11)で射出される。

防護システムはミサイルを感知してからチャフ・フレアを放出したり、迎撃ミサイルを射出したりする装置で、IFF機能もある。

しかし、熱源接近警報は航空機同士の空中衝突防止のだ。

それだけが反応した理由から推察するに、HE系のバイオ魔法だろう。


「コイツ!?」


2番機が叫ぶ。

チャフ1:フレア2の混合は空気中に煙と盛大な光りを灯す。

ホバー状態から復帰したばかりで速度が足りないのか、もしくは3番機の破片を浴びた障害か。

通常より機動力が無く。豪快にエンジンを吹かしては急旋回で鎧袖一触の強さを見せつけた球体の炎を避ける。


「援護する!」


「グゥ!?・・・ッ!頼みます!」


炎の軌道から予測をし、武装番号2の機銃を選択する。

一番離れる時は・・・そこだ!


バピュン!


コックピットに衝撃が来た。

そして映像が停止され、教師がマイクに向かって喋り始めた。


「これが数ヶ月前の戦争開始の合図。その時の映像です。ベルチカ王国からの攻撃はこのように予告も無く行い、我が国は戦争状態になりました。さて、ここで問題です。このバイオ魔法はどの魔物からの攻撃でした?」


クラスの子供達の大半が手を挙げた。

そして、一番最初に挙げたと思う子を教師。いや、ここでは先生が名前を言った。


「では~、8番のジョン君。」


「はい!」


そう言い、ジョンは立ち上がり、説明を始めた。


「多分、炎の大きさからワイバーンだと思います!」


「うん。正解です。はい、拍手!」


そうして拍手に包まれた教室で白い健康な歯を魅せてジョンは笑う。


「そうです。これはワイバーン。サラブレッドの軍用ワイバーンですね。」


この場合、純血種としてサラブレッドは意味を成す。

気性が荒く。手懐けるのが難しいワイバーンの一つだ。

ベルチカ王国で良く見られるワイバーンの一つでもある。

ワイバーン大国の名は伊達ではない。


「今の映像にはありませんでしたが、画像は存在しております。こちらです」


そして画像がスクリーンに浮かび上がる。

ホログラフィックだ。

その画像は左に少し回転しており、見えづらい。

しかし、すぐに先生が「おっと」と言うと回転して見やすくなった。

そのワイバーンには人が乗っていた。

残念ながら画像は粗く、目や着ている服の詳細な所は分からないが。一目見てわかる。

これはベルチカの竜騎隊である。


「これはベルチカの竜騎隊。この青い鎧が目印です。」


ジョンがその画像に存在するベルチカの兵士に恨みを募った視線を向ける。

それに早く気がついた先生が画像。いや、謝ってスクリーンの電源まで消してしまったが、その後に5時間目の終わりのチャイムが鳴った。


「えっと・・・まあ。この話の続きはまた次の授業で。では・・・」


「起立!礼!」


「ありがとうございました!」


先生から呼ばれる前に授業の終了を宣言する。

皆早く帰りたいのだ。

友達とも遊びたいし、帰って用事のある子も居る。

そんな気持ちがこの教室では暴れに暴れてベレストロイカ開始の寸前にまでなっている。

そして、帰りの会が足早に行われ。そしてダッシュで帰る男子達。

ゆったりとしながら確実に下駄箱へと向かっている女子一同。

廊下が封鎖されてイラついた男子がその女子達を無理矢理追い抜いて罵声を浴びせられる。

そんな中。ただ一人、男子が下を俯いて歩いていた。

それを気にする者は多いが、彼が獣人だからと近づかない者が多かった。

そんな中。今さっきの先生が近づき、ポケットから飴を取り出し、手の中に包み込んだ。


「ジョン。これは皆には秘密だからね?」


「ッ!はい!!」


そして、挨拶をして走って帰る彼の後ろ姿を見送った先生は廊下を占拠するのも悪いと、その跡を歩いていった。

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