第3話 転生先は・・・ん?ここどこよ?

ピッピッピッと規則正しく忙しく音が鳴る。

聞き覚えのある音だ。

例えば・・・そう、病院。

病院以外で聞いた事は無いはずだ。

あ、いや。どっかのゲームの非ロックオン時に似てる。

なんだっけ?

なんだろう?


冷却れいきゃくシステム停止]

起床きしょうします]


外から響き渡る声には規則性きそくせい人間味にんげんみを感じさせる何かがあった。

つまりロボットのような声だ。

[本当は中身人間がやってます]な編集ごり押しの声。

まあ、そっちの方が好きなんだけど。

目は根元まで覚めており、眠気は無い。

寝ようと思えば寝れる自分が初めて体験する[ハイになる]状態だ。

赤ちゃんだろうか?

いや、転生なんだから赤ちゃんなはず・・・

そう思い足が見えた。

女性に酷似した白い足がそこにあった。

目の焦点が合うと骨格こっかくが男だと知った。

TS系じゃなくて良かったと思った。

実際になるなんて死んでも嫌だ。

あ、でもTS作品は好きです。

しかし、見れば見るほどしっかりしている。

第二成長期途中か終わった後みたいな骨付きだ。

つまりだ。


{おはようございます。具合は宜しいでしょうか?}


そこは[気分はいかがですか?]なのでは?とも思ったが、言ったら駄目だ。

いや、別になんでも良いか。

そんな事よりもだ。

これって・・・もしかして系だったりします?


「大丈夫ですか?」


返答が無かったから心配させたようだ。

焦ったが、返事は出来た。


「え?あ、おはようございます?」


「はい、おはようございますで合っております遠矢様」


そこでやっと思考が戻ってきた。

遠矢。

そう言われて自身の体を見る。

液体とゼリーの中にうっすらとアレが・・・無かった。

男性の生理現象が来ない事に気が付いたのだ。

さて、あの息子様が居ない。

つまり。

つまりだ・・・


「マテリアルボディの調整を始めますので、体を楽にしてください」


この体は作り物だ。






ちょっとした時間が傍を通り過ぎる。

しかし、それが与えた影響えいきょうは無い。

ちょっとした歪みはここでは日常茶飯事にちじょうさはんじだ。

その歪みを耐えられる彼女と少女はそんな日常が周りとは違う事を知っていた。

普通なら死んでもおかしくは無い。


「おはようかの?」


「いや、こんにちはだ。キュウビ」


時間確認も兼ねて挨拶を行い、感覚を取り戻す。


「友里なんじゃが?」


「名前がややこしいのがいけない」


彼女の姿はもう無い。

そこには男性の姿があった。

相変わらず声だけは女性だが、ここを視認できる存在は居ないだろう。


「お主も難儀よの?」


そう言い友里は変化する。

その姿は見る者を魅了させ、感じる者には偉大さを感じさせる。

姿は九つの尻尾に少し鋭い眼光。

狼程に大きい体には埃一つでさえ寄り付かない。

それは狐の姿をしている。

一つ一つの動作は動かない目に全て刻み込まれるだろう。

少女の時のように可愛さも残ってはいるものの、侮るような者は居ない。

友里は座り、どこかを見た。


「お主・・・そんな世界に道具を持ち込んでいいのかえ?」


「逆に良い・・・人さえ減らしてくれればそれで良い」


そんな事、神様が言って良いのだろうか?

いや、ダメだ。

しかし言ったのには意味があるのかもしれない。

そう友里は思ったが、彼がため息を吐いたのでただ単に休みたいだけなのだろう。


「・・・お主を選んだ理由はわかっておるな?」


「ええ、わかっているからここに入れたのです」


友里を見ずに言ったが、彼の言葉から察する事は出来た。

二つの意味が含まれているのだ。

一つは友里の心臓とも言える遠矢。

そしてもう一つは・・・


「それだけ聞ければ良い。失礼するぞ」


「どうぞ」


そうして世界から出た友里を見届けた彼は深呼吸した。


「・・・死ぬ所だった」


その言葉がどれほど重いのだろうか?

仰ぐ姿には脱力感があった。


「良し、残業再開するか~」


そして友里が去った所に背を向けた。

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