序章

第1話 すべての始まり

 それは、ある日のこと。


 日本で最も大きいと言われている都市、そこに私は住んでいた。そして今日も私はお馴染みの通学路を通っている。

 いつもと同じ場所、同じ時間、それは今日も変わらず同じ光景を私に見せるものだと思っていた。


 ーーーしかし今日はその中に、一つの異物が混ざることとなる。



 それは“悲鳴”だった。



「危ない!!子猫がッ!!」


 遠くで一人の女性がそう叫んだ。

 周りの人の視線がその一点に集中する。そこには、今にもトラックに轢かれそうな子猫がいた。


 次の瞬間、身体が勝手に動いていた。


 自分の事など頭から抜け落ち、気づいた時には子猫とトラックの間に飛び込んでいた。


「結理ッ!!? 危ないーーーッ!!」


 一緒に隣を歩いていた友達がそう叫ぶ。


 直後、その声は悲鳴へと変わった。


 目の前が一瞬ブレたかと思うと、空から地面へと、視界が次から次へと切り替わる。

 突如自分の身体に衝撃を感じたけれど、意外にも痛みは感じなかった。どこか他人事のように、身体が動かない事実をぼんやりと自覚していた。


 何となく目を開くと、悲鳴の主と目が合う。


「ひ…ッ!!?」


 恐怖にひきつった顔で私を見下ろす姿に、“どうしたの?”と声をかけることも出来なかった。

 

 まるで眠気が襲ってくるかのように、ゆっくりと意識が途切れていく。



 そして……



 子猫を助けようとして車に轢かれたのだと、その時はついに気付くことはなかった……

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