異世界で拾われた私は、人間を護る為に魔王になりました。

ひだまり

プロローグ

 この世界で最古と言われている遺跡、そこに私と数名の有力者たる魔族がいた。

 獣人族セリアンスロープ妖精族エルフ飛翼族フリューゲル魚鱗族イドロヴィア粘性族スライム…各々の種族の長に加え、竜族ドラゴンまでもが揃っている。彼らがこの場に集まったのは、たった一つの目的の為であった。

 その目的とは……


「私が魔王で本当にいいのでしょうか……」

『なに、魔王の資格を持つものは、誰が見てもお前しか居まい』


 真っ先にそう答えたのは竜族ドラゴンだった。その言葉に、名だたる魔族たちの長も続けて頷く。

 微塵の迷いもないという皆の瞳に、私は助けを求めるように育ての親へと視線を移した。


「…お父様は、どう思いますか?」


 獣人族セリアンスロープの長でもある、義理の父の様子を伺う。いっそ、“お前には荷が重い”などと否定してもらえると楽だったのかもしれない。

 しかし、当のお父様は腕を組んだまま、さも当然と言った様子で答える。


「俺も同意だ。我ら魔族を統べることができるのは、今にも先にもお前しかいないだろう」

「でも…私は……」


 私には皆の上に立つことができない、大きなな理由がある。

 しかし、父は"それがどうした?"とでも言うように、私の言葉を制した。


「自分が魔族ではないことを気にしているのか?だが、俺たちにとってお前の出生など関係ない。お前には力と皆の信頼がある、それだけだ」

「お父様……」


 …そうだ、きっとこの人たちならば、そう言うのだろう。

 私を6年以上も育ててくれた彼らは、損得では動かないことを私は知っている。“自分がそうすると決めたから”、それだけが彼らの原動力なのだ。

 “自分が目の前の少女を魔王と認めたから”…彼らにとって、それ以上の理由など必要なかった。


「おっと、これからは俺もお前を敬わなければならないな。申し訳ございません、先程までの無礼を何卒お許しください」

「も、もう…冗談はよしてください……!」

「ははは。すまんな」


 出会った時から比べると、いくらか皺の増えた顔を緩ませてお父様は笑った。

 しかし、すぐにその表情を引き締め、真っすぐに私の顔を覗き込む。


「だが、これからはお前が皆を率いていくのだ。その覚悟は出来ているか?」


 私を優しくも厳しく育ててくれた父は、これが最後の教育だと言うようにそう問いかける。


 その言葉に、私は少しの迷いもなく頷いた。



「はい。ずっと昔から」



 その言葉に、父は満足そうに頷いた。



 そして…私の生きる道はその時に決まったのだった。



 “人間”を護るために、



 私は"魔王"になった。

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