第二十話 ろりりり

 手を繋いで駆けた六花と鈴が行き着いた先は、今よりも小さかった頃にみんなで遊んでいた公園だった。


 鈴は涼しげな顔をしてるが、六花はぜぇぜぇと息を切らしている。


「佐々木、もっと運動しなよ」


「おまえの体力が異常なんだよ、バカ……。にしても、懐かしいな、ここ……」


 もう最近はこの場所で遊ぶこともなくなったが、四人が知り合って間もないころ、よくここに集合しては駆け回ったり遊具で遊んだりしたものだった。


「佐々木、覚えてる? ほら、あのブランコ」


 鈴が公園の片隅にある木製のブランコを指差し、走っていった。六花にはもう走る気力も体力もないため、歩いてその後を追う。


「これ、まだ残ってるんだよ。知ってた?」


 鈴がブランコの柱に触れる。

 そこには、彫刻刀で彫られた四人の名前があった。


 ろっか

 りさ

 りょうか

 りん


「ああ、懐かしいね……」


 友情の証にと鈴が発案して、みんなで掘ったものだ。後日学校にバレて先生にこっ酷く怒られたが、それも今となってはいい思い出だと六花は思う。


「グループ名ろりりりだよ」


「そんなこと言ってたね、おまえ」


 完成図を見た鈴が、頭文字を組み合わせて自分たちのグループにそう名付けたのだった。「なんか響きが間抜けっぽい」という六花の一声により、全く定着しなかったが。


「せっかくいいグループ名なのに、佐々木のせいで誰も使わなかったんだからな。恨んでるぞ」


 鈴がそう言いながらブランコに座り、漕いでいく。


「バカ、わたしが言わなくても涼華が言ってただろうし、たぶん理沙だって内心そう思ってたよ」


 六花も鈴の隣のブランコを漕ぎ始める。

 鈴がブランコが前へ進むとき、ちょうど六花のブランコは後ろへと下がり、すれ違いの状態となる。


 お互いのブランコが交差する一瞬。


「六花、大好き」


 鈴が、六花への想いを伝えた。

 いきなり好きだと言われたことと、また下の名前で呼ばれたことに六花は動揺して、思わずブランコを止めてしまう。


「な、なんだよ、いきなり」


 鈴はブランコから飛び降りて、前方へと着地をする。そのまま背中を向けたままで、言葉を続ける。


「あたし、六花のことが好きなんだ。友達としても、もちろんだけど、友達として以上に……大好きなんだ」


 ここに来るまでの間に覚悟を決めていたからだろう、鈴は不思議と緊張することも、恥ずかしくて赤面することもなかった。


 ここまで聞いて、ようやく六花は鈴の好きな女子が自分なのだということを知った。


「……そう、だったんだ」


 六花の胸中には、多くの感情がない交ぜになっていた。


 友達からの突然の告白による戸惑い。


 グループ内の人間に恋をしていたのが自分だけではなかったという安堵。


 それから――――理沙へと抱き続けた恋心。


「ごめん。気持ち悪いよね。いきなりこんなの」


「そんなことない!」


 自虐するように言う鈴に、思わず六花は声を張り上げた。


「そんなこと……言うなよ……。誰かを好きだって想いが気持ち悪いわけ、ないでしょ……」


「うん、ありがとうね。六花ならそう言ってくれるって、知ってた。何だかんだ優しいから、そういうところが大好きなんだ」


 六花の方へと振り返った鈴は、満面の笑顔だった。


「……だから、ちゃんと伝えるよ。六花……あたしと……友達以上に……あたしの、恋人に、なってほしい……」


 鈴の告白を受けて、六花は――――涙を流した。

 それがいかなる感情から溢れてきたものなのかは、六花自身にもわからない。


 ただ、一つだけ確かなことは――――。


「……ごめん、少なくとも今はまだ、林の気持ちには……応えられない」


 ――――自分が、これから鈴のことを傷つけてしまうだろうということ。

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