第十八話 好き

 時を同じくして、涼華は理沙を家まで送り届けていた。


 道中会話がなかった二人だが、理沙の家の前に着いたところでようやく涼華が口を開いた。


「……理沙、今日はゆっくり休みなさい」


「……うん、ありがとう、涼華ちゃん」


「……もう大丈夫? 落ち着いた?」


「…………」


 涼華の問いかけに、理沙は返事ができずにいた。


(大丈夫じゃないって言ったら、涼華ちゃんは、わたしに何かをしてくれるの……?)


「理沙?」


 涼華が心配そうに理沙の顔を覗き込む。


(……ううん、もうこんなこと考えるのはやめにするんだ……自分の気持ち、ちゃんと伝えるんだ……)


 理沙は自分に言い聞かせて、大きく息を吸った。


 もう二度と、あんな後悔をしたくないから。


 この想いを伝えても、きっと後悔をすることになるのはわかっている。


 ――――でも、伝えずに後悔して泣くよりは、ずっといい。


 理沙は涼華を真っ直ぐに見据えた。


「涼華ちゃん」


「なに?」


「…………わたし、涼華ちゃんのことが、好き」


「ええ、わたしも理沙のこと好きよ」


 涼華が微笑む。

 同じ好きでも、両者の言葉の意味は違う。


「……違うの。わたしの好きは、涼華ちゃんが鈴ちゃんに抱いてる好きって気持ちと、同じものなの」


 涼華が理沙の発言の意味を理解するまで、数秒を要した。あまりにも情報量が多すぎる。


「え……ええっ……!?」


 自分の鈴への気持ちを知られていたことに関して、いつから、どうしてと疑問が湧き上がる。

 それと並行して、理沙が自分のことを、そういう意味で好きなのだということを理解して、突然それを告白されている状況にも混乱した。


「わたしは涼華ちゃんの顔が好き。声が好き。まっすぐなところが好き。負けず嫌いなところが好き。給食で苦手なピーマンも我慢して食べるところが好き。……難しいことや苦手なことでも絶対にあきらめないところが好き。……涼華ちゃんは、わたしが持ってないものをたくさん持ってるの。…………大好きなの」


 想いは――好きだという感情は、一度吐き出してしまったら、もう止まらなかった。


 理沙は、自分が嫌いだった。


 利己心のために、友達をも利用していた自分が嫌いだった。


 勉強も運動も平凡で、それらで六花や鈴には敵わないとすぐに諦めてしまう自分が嫌いだった。


 とりたてて特技もなく、苦手なことはすぐに投げ出してしまう自分が嫌いだった。


 そんな理沙にとって、涼華という存在は眩しく輝いていた。

 羨望は、いつからか恋慕へと変わっていった。


「――――理沙」


 理沙の想いを聞いた涼華は目を閉じて、それからゆっくりと話し始めた。

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