第十七話 決意

「佐々木、な、なんで……?」


 なんで六花が来てくれたのか。

 なんで六花まで泣いているのか。


 鈴は同時に二つの疑問を抱いたが、混乱してそれ以上何も言うことができなかった。


「おまえの様子が変だったから追ってきたんだよ」


 六花が肩で息をしながら言う。


「…………そっか、ありがと」


「あと、わたしが泣いてるのは……おまえとは関係ないことだから、気にしなくていいよ」


 六花は鈴の口から聞くまでもなく、鈴の疑問に答える。

 何だかんだ言いながら自分のことをよく見ていてくれて、考えも全部見通してしまう六花。鈴は彼女のそういうところが好きだった。


「……うん」


「林、こんなところで立ち話も何だから、どっか行くよ。えーと、この近くだと、どこがいいかな……」


 六花がポケットからハンカチを取り出して、鈴の涙を拭った。その優しさが嬉しくって、切なくって、鈴は余計に泣いてしまった。


「バカ、何でまた泣いてるんだよ。……やめろよ、わたしまで、釣られるだろっ……」


 二人揃ってボロボロと涙を零す。


「だってぇ……佐々木が、やざじぃからぁ……」


 鈴が鼻水をズビズビさせながら言う。


「おまえ、これ洗って返せよ」


 鈴の鼻水を拭きながら、六花は精一杯の軽口を言って笑ってみせた。


「まかせろ、あたし洗濯のプロだから」


 鈴もまた、泣きながらも笑ってみせて、六花からハンカチを受け取った。


「それは初耳だよ」


「柔軟剤ドバドバで、ふわふわにして返してやるから覚悟しとけよ佐々木っ!」


「おまえ絶対プロじゃないだろ」


 二人はようやく『いつも通り』が返ってきた気がした。


 いつもなら流してしまう、こんな他愛のないやり取りが何だか嬉しくって、微笑み合った。いつのまにか涙は止まっていた。


「佐々木、行こ」


 鈴が六花に手を差し出す。


「どこにだよ」


 六花がその手を握り返す。


「どこだっていいよ、あたしらが一緒ならさ!」


 鈴は六花の手を引いて、駆け出した。


 六花とこんな風に過ごせる時間も、もしかしたらこれが最後になるのかもしれない。そう思うとまた泣きそうだ。


 鈴は今日、六花に想いを伝える決意をしたのだった。

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