第十五話 分かれ道

 帰り道。

 いつものように四人で歩くが、いつものような会話はなく、誰も何も言えないままだった。


 理沙の涙の理由も誰も聞けないまま、鈴と涼華の一件の誤解を解くこともできないまま時間だけが過ぎていく。


 分かれ道の十字路に差し掛かる。

 家の方向の違いから、いつもこの道で六花と理沙、鈴と涼華とで別れて、それぞれ帰路につく。


 普段ならまた明日と手を振って解散するのだが、今日は誰からともなくその場に立ち止まり、数秒の沈黙の後、鈴が口を開いた。


「あたし、今日はこっちだから。……バイバイ」


 そう言って、いつもの帰り道とは別の道へと歩いていく。

 鈴はあれから、ずっとまた泣きそうになるのを我慢していた。これ以上この場に留まっても、涼華と同じ道で帰っても、我慢できずに泣いてしまうだろうという予感があり、一人になりたかったのだ。


 鈴の様子がおかしいことには、六花も涼華も気がついていた。かと言って理沙を放っておくこともできない。


「涼華」


 六花が涼華を見据えて、その名前を呼ぶ。


「何よ」


「林と付き合ってるの?」


「な、なななっ!? そ、そんなわけないでしょ!?」


 突然の問いかけに涼華が動揺する。


 鈴に好きな女子がいるということを聞いていた六花としては、その相手が涼華なのだと思っていた。


「でも、涼華ちゃん、鈴ちゃんにキスしてた……」


 理沙の言葉に涼香が頭を抱える。


「だ、だから! さっきから言ってるけど、あれは事故で、あたしは鈴とそういう関係じゃないわよ!」


「……ほんとに?」


 理沙の目に生気が戻る。


「本当よ」


 言いながら涼華は、どうして自分が好きな子と付き合っていないということをこんなにも力一杯説明しているのだろうと、内心落ち込んだ。


「……そっか、よかった」


 理沙は少しだけ微笑んでそう言ったが、その言葉に六花は違和感を覚える。



 ――――よかった?



 鈴と涼華が付き合っていないということを聞いて、よかった?

 ということはつまり、理沙は――――。



 ――――その、どちらかのことが好きなわけで。



 ――――少なくとも、理沙に選ばれたのが自分ではないということが確定したわけで。



「……涼華、理沙のこと頼んでいい?」


「え? 六花、あんたは?」


「林だって何か変だったし、放っておけないでしょ」


 それは半分は本当のことだが、もう半分は言い訳だった。

 現実を突きつけられて、自分がこの場にいたくなくなっただけだ。


「じゃあ、ちゃんと理沙を家まで送ってね!」


 六花は涼華の返事も待たずに、鈴を追いかけて走り出した。

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