第十四話 涙

 不慮の事故によるキス。

 涼華が慌てて飛び退く。耳まで真っ赤にして、あからさまに動揺していた。


「ご、ごご、ごめんなさいっ!」


「い、いや別に、そんな謝んなくっても――」


 そう言いながら鈴は辺りを見回す。それよりも今のが誰かに見られたりしてなければ――――階段の上にいる六花と目が合った。隣には理沙もいて、口元を両手で覆っている。

 六花は驚いているような引いているような、何とも形容しがたい表情をしていた。


「うぎゃあああああっ!?」


 よりにもよって一番見られたくない相手に目撃されたことに、鈴が悲鳴をあげてその場で膝を抱えて丸まった。


 それにより涼華も二人の存在に気がつく。


「ふ、ふふ、ふたりともっ、これは違くてっ! 事故なのよっ!」


 涼華は弁明するが、二人が見たのは涼華が階段から落ちた後の出来事で、傍から見ると涼華が鈴を押し倒してキスしていたようにしか見えなかったのである。


 二人が階段を降りてくる。


「……まあ、おまえらがそういう関係なのは別にいいけどさ、場所を考えなよ」


 六花が呆れたようにため息を吐く。


「だ、だから違――」


 鈴が顔を上げ、反論をしかけて固まった。六花の隣にいる理沙が涙を流していたからだ。


「り、理沙?」


 鈴の呼びかけに理沙は無反応だ。


「理沙、どうしたのっ?」


 遅れて理沙の涙に気がついた六花が理沙に心配そうに声をかける。涼華も駆け寄ってきた。


 涙の理由は無論、涼華と鈴のキスにある。


 失恋した、失敗したと、理沙は思った。

 鈴と六花をくっつけようなんて回りくどいことをしていないで、本当に好きなら真っ直ぐに自分の気持ちを伝えるべきだったのだと後悔した。


「理沙……」


 涼華が理沙にハンカチを差し出す。

 理沙は黙ってそれを受け取り、次から次へと溢れる涙を拭った。


 ハンカチからは、大好きだった涼華の匂いがした。


 そんな三人を眺めて、鈴はまた膝を抱えた。


(佐々木に見られた……しかも絶対勘違いされてる……あたしだって泣きたいよぉ……)


 そう考えると、自然と目から涙が溢れ出してくる。


 ――――鈴の涙には、誰も気がつかなかった。

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