第五話 ホの字
放課後になる。
「佐々木、実は今放課後なんだよ」
「知ってるよ」
鈴の言葉を適当に流して、六花は鞄に教科書を詰めて帰り支度を進めていく。
「リアクション薄いぞ佐々木。仮にも関西人ならもっと大げさに驚いてよ」
「生まれも育ちも北海道だよ」
「ホンマでっか!?」
同じく北海道生まれで北海道育ちの鈴が無駄に大げさに驚いてみせた。何故か関西弁だったが、それに突っ込みを入れるのも鈴の思惑通りかと思うと癪だったため、六花はスルーした。
「佐々木ぃ、突っ込めよぉ、寂しいだろ?」
鈴がちょっと涙目になる。
「林と漫才コンビを組んだ覚えはないっての。そういうのは
涼華というのは隣のクラスの
三年生の時のとある出来事をきっかけに六花、理沙、鈴、涼華の四人は仲良くなり、それからは何をするにも一緒だった。
「やだ、佐々木がいい」
「なんでだよ」
「だってあたい、あんたにホの字だからさ……」
鈴が染めた頰を両手で押さえる。
「理沙ー、帰ろー」
六花はそんな鈴をスルーして、離れた席の理沙に声をかけた。
「あ、うんー」
理沙が小走りでやってくる。その間、鈴が「くそ、やっぱりおっぱいか……おっぱいなのか……」とブツブツ言う声が六花にも聞こえていたが、それも無視した。
それとほぼ同時に隣のクラスから涼華がやってくる。
その姿を確認した鈴が軽口を叩いた。
「あ、隣のクラスの人だ」
クラス替えのときに涼華だけが別のクラスになってからの、恒例のイジりネタであった。
「いい加減それ言うのやめてよ! 毎回地味に傷ついてるのよ!?」
涼華が涙目で鈴の胸ぐらを掴む。
「ぐ、ぐるじぃ……ギ、ギブギブッ……」
「あははー、相変わらず二人は仲良しさんだねぇ」
そんな二人を見て、理沙が間延びした笑い声をあげる。
いつも通りの光景だなと六花は呆れながらも、心のどこかでは安堵していたのだった。
この四人の関係は、きっと何物にも代えがたい大切なものだ。
(だから、わたしが理沙を好きなことは言わない方がいいんだ、うん……)
「佐々木、どしたの」
いつのまにか涼華の拘束から抜け出していた鈴が六花の顔を覗き込む。
「なんでもないよ」
「なんでもある顔してたぞ」
(こいつバカのくせにたまに鋭いんだよな……)
「なんでもないっての。さあ帰ろ」
六花が、自分よりも背の低い鈴の頭にポンと手を乗せる。
鈴の頰が、冗談や演技を抜きにして赤く染まっていることに六花が気がつくことはなかった。
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