第四話 ギブアンドテイク

 二時間目の授業が終わり、三時間目の授業が始まる前の休み時間。次は算数の授業で、小テストだ。


「ねぇ、佐々木。次の算数、小テストだよね?」


 鈴が隣の席の六花に声をかける。


「そうだよ」


 やはりヤマを教えろと来るかと、六花は内心ため息を吐く。ていうか算数にヤマも何もないんだけど、こいつは毎度毎度と、今日こそは何か言ってやろうと六花は考えるが、鈴の発言は予想の斜め上を行く。


「カンニングさせて?」


「おまえ殴っていい?」


 六花が握り拳を作ると、鈴が慌てて言葉を続ける。


「待て落ち着け佐々木、ギブアンドテイクと行こうじゃないか」


「おまえがわたしに何を与えられるんだよ。言ってみろよ」


「その……愛……とか」


 鈴がしおらしく、ポッと頰を赤く染める。


「いらねぇ」


 しかし六花は鈴の提案をバッサリと切り捨てる。

 そんなやりとりをしていると、理沙がやってきた。


「六花ちゃん、ちょっといい?」


「理沙、どうしたの?」


「算数なんだけど、ここがわからなくって……」


 理沙が困り顔で、教科書の問を指差す。


「ああ、うん、ここはね……」


 六花はわかりやすく、丁寧に解説をした。


「あ、そういうことかー。いつもありがとう、六花ちゃん」


「いいよ。理沙にならいつだって教えてあげるからさ」


「うん、ありがとうね」


 理沙は微笑んでお礼を言うと、自分の席へと戻っていき、次のテストのために自習を始めた。


「佐々木ぃ、理沙とあたしとで態度違いすぎじゃない?」


 鈴が面白くなさそうに言う。


「うるせぇ、おまえの日頃の行いのせいだよ」


「おっぱいか?」


「は?」


 鈴がまたわけのわからないことを言い始めた。


「理沙のおっぱいが大きいから理沙には優しくするんだろ? 佐々木のスケベ!」


「おまえやっぱりあとで殴るわ」


 たしかに理沙は同年代の女子と比較すれば発育が良い方だが、それとこれとは一切関係がないし、六花が理沙を好いていることとも無関係である。


「あたしだってキャベツ食べてるし、牛乳も飲んでるんだけどなー」


 そう言いながら、鈴が自分の胸をペタペタと触る。

 鈴は理沙とは対照的に同年代と比べて発育が悪く、背の順番でもいつも一番前だった。


「おまえは生活が不規則すぎるんだよ。ちゃんと夜寝ろよ」


「えー。でも、授業中寝てるから睡眠は足りてるよ?」


「そういう問題じゃないっていうか、問題しかないな、おまえ」


「褒めるなよ、佐々木」


「褒めてねぇ」


「じゃあ、惚れるなよ?」


「うるせぇ、理沙を見習っておまえも勉強しろバカ」


「えー、だってもう」


 三時間目の始業チャイムが鳴った。


「ほらね?」


 鈴が何故か勝ち誇ったような顔をする。


「おまえが何でそんなに誇らしげなのか、百回くらい聞きたいわ」




 テストの結果は六花が100点、理沙は80点、鈴は0点だった。

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