第43話 狩り合い
電車は長いこと走る。
「気を抜くな。何処から襲ってきてもおかしくはない」
車窓には黒一色。この先から何が襲って来るか分からない。
二人はゆっくりと白い布に覆われた扉に向かう。
ガラスの向こう。丁度列車と列車の連結部分の空間に白い何かが居る。カーテンのように窓の向こうを隠すというよりは、僅かに隙間から列車の壁が見えることから誰か居ると言った方が適切だ。だがそれは手も足も見えず、ただ胴体だけのようにも感じる。
稲永の指の輪の術にはまるでガラスが曇ったかのように先が見えない。
「
柳の記憶では霊領とは、霊が作る結界だ。神の住む異界とは違い、現実空間を基に獲物を閉じ込め、機会を見て喰らう為の狩場だ。
そこは狩人の独壇場。何が起きるか、進まなければ分からない。
「柳、お前は周りを見てろ、何かあったら直ぐに刃を突き立てろ。これで殴ってもいい」
そう言って今日ずっと持っていた袋を渡される。昨日買った酒が入っている。
(さっき酒飲んで無かったか?)
渋々ではあるが、言われた通り柳は後方で異常が起きても対応出来る様に、稲永の背後を警戒する。
稲永は扉の前に立ち何かを唱え始める。
「”鮮明”、”逸らし”、”延伸”」
前二つは何が起こったかは目には見えない。だが最後の一言で稲永の持つナイフが腕一本分の長さの剣のように引き延ばされた。
稲永は扉の前で剣を構える。
「ぜええぇぇぁ!」
それは容赦なくガラスを突き破り突き立てられた。だが
(手ごたえがない?)
剣を引き抜き刃を見る。何も異常はない。
だが窓の向こうの布はまるで最初から無かったかの様に割れたガラスだけ。
「こりゃ面倒な奴かもしれんな、柳行くぞ」
「はい」
柳と共にその先の車両に移る。
「誰もいない……」
「変だ」
「何がです?」
「暗すぎる」
電車内は照明があるが外は常に黒しかない。
稲永は左腕に付けられた腕時計を見る。
「おい柳、今何時だ?」
そう言われて柳はスマホから今の時刻を確認する。
15:32
「十五時、三十二分……?」
急いで柳は窓を見る。
夜中の景色だと思っていたそれは実際にはトンネルに居る時よりも暗い、何も映さぬ暗黒が広がる。今、冬前は夕方、それもまだ明るいはず。ここはトンネルのような響く音はしないむしろ周りには何も無いのではと思うほど電車の駆動音以外がしない。
ガタンゴトン
ガタンゴトン
変化の無いリズム。
誰もいないどこに止まるか分からない。この先果たして出られるのだろうか?永遠にここに閉じ込められたのではないかと思う程、この風景に変わりがない。
柳の頬を冷や汗が流れる。
「ナイフをしまえ」
「無防備になれと?」
「警戒心剝き出しの獣を狙う狩人がどこにいる。不本意だが隙を出さなきゃならん。
それにずっと警戒しっぱなしだとこっちが持たんぞ」
稲永は車内を歩く。
「手掛かりを探すぞ。こっちも向こうを狩らねばならん」
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