第42話 霊の殺し方
次の日、二日ぶりの仕事だ。
今は某県にある電車に稲永と乗っている。揺れる電車内、柳達は別にどこかに向かっていると言うわけじゃない。
「今日は何するんです?」
「今回はこの電車で起きるっていう都市伝説の調査、封印もしくは可能なら抹殺だ」
淡々とした会話に柳は言葉に困る。先日の稲永との出来事で何がどうというわけではないのだが柳は気まずいのだ。
「えっと、その……」
「無理して何か言おうとするな。特にあれしろこれしろと言った覚えはねぇ。ただ、お前はお前らしさを見失うなってだけだ」
だが稲永は大して気にしていないようで話を進める。手にした袋を隣の席に起き話を進める。
「俺らしさ?」
「ああ、それだけ覚えていたらいい」
その言葉に柳はピンとこなかったが、深く考えても自分の頭では答えは出せないとわかっているのでそこで考えるのを止めた。
駅に止まるたびに人が減っていく電車内、どこかに向かう道へと電車は進んでいく。
長い待ち時間、電車内で景色を眺めるか適当にスマホを弄ることくらいしかない柳は、ふと疑問に思った事を聞く。
「そういえば、その都市伝説というのは?」
「知らんのか?」
「まぁ、はい……」
「奇遇だな。ワシも知らん」
「え!?」
じゃあどうやってその情報を知り得たんだ。
「正確には適当なホラ話が多くて判断が付かん。誰もいないのに触られただの、人身事故があって被害者の腕が何故か電車内にあっただの、知らん駅に止まっただの、そういう話だ。怪異の仕業なのかただの物理的な現象なのか、ただの噂なのかようわからんモノが多くてな」
「だから、調査なんですか」
「ああ、何か起こるまで気長に待とうや。電車代は後で伏がどうにかしてくれる」
一人で書類仕事の全てをこなす警部の悲鳴を思い出しながら、柳はスマホで適当に某県内のオカルト関連の情報収集を始めた。稲永は袋をから瓶を取り出し飲み始める。
そこからどれ程時間が経っただろうか、既に窓の向こうは暗く稲永以外は誰も見えない。
「お前、警部から霊についてなんて聞いた?」
「え?えっと確か、物理では殺せない事と術による精神攻撃が基本だって」
「そうか。じゃあ、あれなんだと思う?」
稲永が指差した先には隣の車両に続くの扉の窓に、白い布が一面覆うように映り、向こう側が見えない。
「え?あんなの在りませんでしたよね」
「ああ、ASの電源を入れろ。警戒を怠るなよ」
民間人に聞かれたら間違いなく迷惑になる装置の電源を入れ車内を見渡す。
稲永のASは間違いなくあの布に反応している。
「見知らぬ駅に降ろされた事はあったが、走る電車内で出くわすのは初めてだ」
稲永は懐に手を伸ばし久しぶりに見る、あのナイフが取り出される。
「お前もナイフを持て」
「え?物理は効かないんじゃ」
「忘れたか?怪異は感情のぶつけ合いだ。祈りや純粋な感情をぶつければ簡単に倒せる。ぶつけんのは純粋な殺意がやりやすい」
柳は少しづつ思い出していく。警部との授業、水死体と相対した時の感覚。闘争心の高ぶりに柳の体に緊張が走る。
「そこに恐怖を混ぜるなよ。一瞬で死ぬぞ」
その警告はどの言葉より重かった。
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