第14話 神とは約束するべきでない


「どう?一瞬でしょ?」


 ヤマダが何をしたかわからなかった。だが彼女が言っていたように転送装置か何かを使ったのだろう。ともあれ柳は六課に戻って来た。事務所の時計は五時を指している。部屋が地下にあるせいで今は朝なのか夕なのかはわからない。一番奥のデスクで伏警部が寝ている。


「まーたこの狸はー。えい!」

「ふげっちゃ!……?」


 伏は奇怪な悲鳴を上げ起き上がる。

 そして数秒、硬直している。


「ど、どうも心配掛けました…」


 十秒程の硬直があった為、柳は声を掛ける。


「や、柳君なのかね?」

「え、はいそうですけど」

「ど、何処か異常は?」

「?、ないですけど?」


 伏警部は大急ぎでスーツからASを取り出し柳に向ける。


「ヒィ!」


 柳から反応が有った事に驚き反応する。


「ポン、ASは怪異と術に反応するのであって、人間と外来人と神には反応しないよ」

「じゃ、じゃあこの反応はなんだというんだ!」

「頼三から聞いてるでしょ?、神のしーるーし」

「ブフッ」


 虎を前にした狸のように怯える伏警部に柳は笑ってしまう。

 伏は柳の身体を触り、すり抜けないかを確認している。


「じゃあ、本当に?」

「本当」

「本当にホント?」

「ホントホント」


 そのまま一瞬にしてデスクの受話器を取り出し電話を掛ける。


「稲永君!柳君が帰って来たぞおぉぉぉぉぉぉー!」

「なんじゃとぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」


 アイマスクを付けた稲永が一瞬で飛んでくる。

 ちなみに仮眠室はすぐ隣である。


「本当にお前柳なのか!?おいヤマダ!ホントに柳なんだろうな!」

「ホントだよ。死んでないよ」


 それを聞いた稲永は力なく床に座り込む。


「はは、マジかよ……」


 なにが信じられないのか稲永がその場で座り込む。


「え?ど、どうしてそんな反応なんですか!?」

「簡単だよ。今まで六課の人間が異界の門を通って五体満足で帰って来た事はないからね。君は本当に運が良かったんだ」


 隣のヤマダがあっけからんと言った。


「そうだよ!柳君、君が今どれほど危険な状態だったか認識した方がいい!」

「いや、祝福だと思って見過ごしていた自分の失態です」


 そう言って稲永が立ち上がり言う。


「そうだな。我々の失態でもある……基本的に友好的だからと安心してはいけない事を再認識したよ。彼らは超常の存在、気持ち一つで我々は簡単に消え去る」


 そうヤマダと並ぶ自分達を見つめて喋る伏警部。


「暫くはここで講座でも開こう。いきなり実施は早すぎた……」


「そうじゃな……」


 重苦しい雰囲気が事務所に事務所内に漂う。


「そう言えばあの後どうなったのですか?」

「あの後?ああ後処理か。崖降りてるときに呼んだ警部に民間人任せて後はそのままだ。流石にあの肉の塊を……」

「肉の塊?」

「ああいや、気にしないでくれ。とにかく仕事は終わった。今日はもう帰っていいぞ。後はヤマダクンに任せる」

「えぇー!?私ぃー!?」





 仕事を終えて自宅に帰る柳。


 今日は柳は何もしてないように感じた。

 まだ自分の弱さを認識しアパートのドアを開ける。


「おかえりー!」

「ただいまー」


 と反射的に応えた柳は目を見開く。


 自身のアパートの一室、一人暮らしの柳の部屋に第三者が居る。


 それも月で別れた少女が居た。


 無垢に笑う少女、一瞬彼女の目が鷹のように鋭くなった気がした。

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