第13話 君は優しいね
「ん?お、おう?」
柳には何が起こったのかわからない。確か自分は白痴の姫に遊ぼうと言われて……?
起き上がり頭を抱える柳が目にしたのは
「というわけでこれからは地球に迷惑かけちゃ駄目だよ?」
「はーい……」
当の少女はヤマダに怒られていた?何がどうなってそうなったのかはわからない。
「ヤマダさん?どうしてここに?」
「稲永ちゃんに連れてこいといわれちゃってねー。この子のことは気にしないでいいよ。もう大丈夫。ほらお兄ちゃんに言う事は?」
「ごめんなさい」
しゅん、とした顔で謝る彼女は元気がなさそうだ。よっぽどこっぴどく怒られたのだろうか。
「なぁ、何があったんだ?」
「簡潔に言えば彼女が暴走して君を自分のモノにしようとしてー、倉庫にここに繋がる門を作ってたって事なのさー。それを私は頑張って止めた」
「頑張ってってなんですか……」
多くを語らない彼女に柳は慣れない。疲れているのか朝程の覇気は無いようだった。
「俺の印はどうなったんです?」
「彼女が消したくないって。だけど前みたいにいきなり記憶は無くならないと思うよ。そう約束させた」
「ヤマダさんは、ヤマダさんも新しき神なんですか?」
「何処で聞いたの?」
「月の瞳がそう言うは結構いるって。普通の人間だったらどうやってここに来るんですか」
「アハハ!それもそうか!」
彼女は何かを言うわけでもなくただ笑った。
「変なもの渡したでしょ。あれは転送装置みたいなものでね、それでここに来たの」
「そう……なんですか」
お守りみたいなモノと言っていたがそんな大層なモノだったとは思わなかった。
「あの!フウト」
「ん?」
白痴の姫は柳に近づき初々しく話しかける。
「また来てくれる?」
「それは駄目、この兄ちゃんは仕事があるからね。」
無慈悲に答えたのはヤマダ。今にも泣きだしそうな彼女を見かねて柳は彼女と目線が合うようにかがむ。
「こっちから会いに行く事はできないけど、会いに来るなら全然かまわないぞ」
「ホント!?」
無邪気に笑う彼女の顔は何処か懐かしい香りがする。今は黒いナニかが沸き出る事も無く、その朧げな記憶が柳の心を潤す。
今はまだ思い出せないが、柳にはこの無邪気な少女が悪い者には見えなかった。
「あーあ、そんな約束しちゃってー。しらないよ~?」
ニヤニヤと笑うヤマダは微笑ましそうに見てくる。
「さてじゃあここでしておくことはない?帰るよ、新人クン」
白痴の姫と月の瞳は柳に向かって手を振っている。
「ばいばーい!」
柳は笑いながら手を振り返す。
柳は知らない。
稲永がどうにかしてくれただろう倉庫の事件、月の瞳が柳を連れて来る為だけに人を材料にしていた事を。
柳は知らない。
ヤマダと白痴の姫の間に何があったのかを。
どんな取引があったかを。
柳は知らない。
姫が柳に聞こえないようになんと呟いていたかを。
「絶対にボクのモノにするんだから……」
「で、どうやって帰るんです?」
「こうやって」
ヤマダが手を二回叩いた瞬間。
そこは六課の事務所だった。
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