第16話 ショーン
ショーンと過ごした十数年間は夢のように瞬く間に過ぎていった。
あの城に住むのが吸血鬼の一族だったとは、仲間に迎え入れられるまで全く気づきもしなかったのだ。
トマスは日中も一緒に活動をしていた。
血族の種類によっては薄曇り程度なら日中でも外を出歩ける吸血鬼もいるのだという。ニンニクや十字架もへっちゃらだった。彼らは冗談のようにガーリックソースを掛けてほぼ生肉のステーキを食べていたし、古臭い迷信を信じているのは人間だけだと鼻で笑っていた。
食物連鎖の頂点に立つ生き物だと思った。
私が感銘を受けたアナキスト達よりショーンの方がもっと興味深かった。
国に縛られない生き方すら存在しない。
彼は何事にも何者にも縛られない人種。
いや、吸血鬼にも多少の縛りはあった。でも彼はそれをどこかで楽しんでいた。
全てにおいて、私の理想とする人だった。
トマスが私を晩餐会に誘ったのは、ショーンのためだったのだ。
いや、ショーンの食事のためか。
ショーンは毛色の違いで血の味が変わるのか興味があると言っていた。獰猛なくせにユーモラスのある、とてもおかしな人だった。
「そんなことはどうでもいいだろ?」
彼の腕枕の中で笑うと、ショーンは目を丸くして熱く語った。
「たかが食事、されど食事だ。週に一度の大事なディナー。最高級の食材を味わいたいと考えるのが当然だろ?」
「……食への熱い想いに関しては、あなたの右に出るものはいないよ」
私はショーンの首へ腕を回し、そっと引き寄せその唇を吸った。
「僕は? 美味しかった?」
「……今まで味わった中で、セイイチが一番素晴らしかったよ。今でもだ」
ショーンはまた私の中へ入ってきた。その体積に喘ぎ空気を吸うと、ショーンの柔かな唇が動脈を吸う。それだけ
で、身悶えするほど気持ちいい。
「あ、ああああっ」
牙が入ってくる感触に何度目かの絶頂を迎えた。
「甘くて、なんていい香りだ……うっとりする味だよ。セイイチ」
「……ぼく、もっ、頂戴っ」
ショーンの首に歯を立てると、ショーンが気持ちようさそうに呻いた。
「ねぇ、僕もショーンに入れたい。入れさせてよ」
「俺を抱くなんて、百年早いぞ」
「じゃ、あと四十年くらい経ったら交代してくれるんだね」
「いちいち年数なんて覚えていられない」
「大丈夫だよ。僕が数えておくから」
「セイイチは真面目だな」
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