第14話 招待

 翌日の夕闇が迫る時刻、トマスは真っ赤な自動車で私を迎えに来た。

 日本にも自動車やバスが走り始めた頃だったが、形といい安定性といい、日本の乗り物とは段違いであった。


 そして屋敷は……あまりのスケールの違いに度肝を抜いた。

 まるで博物館か城か何かのようだ。いや、貴族なのだから城なんだろう。しかし近代社会において、このような大きな建物が個人の所有物だということが信じられなかった。


 呆気にとられつつ門をくぐる。

 公園のような広々とした敷地。真ん中には大きな池。


 トマスは口を開けたままの私を見てクスッと笑った。


「兄が君に会いたがっていた。セイイチさえ良ければ兄にも会ってもらえないだろうか」

「もちろん」


 トマスはホッとしたように微笑んだ。


「兄のショーンは僕と違って社交界が苦手だ。しきたりを窮屈がってね。少しばかり偏屈なところがあるが、とても自由な精神の持ち主でもある。きっとセイイチと話が合うと思うよ」

「それは楽しみだね」


 屋敷の中も素晴らしかった。

 白い壁、天井がやたら高い。きらびやかで大きなシャンデリアの数々。大理石のテーブル。まるで今から舞踏会が始まるよう。


 私は一張羅の燕尾服を着ていることに安堵しながら大広間へトマスの後に続いた。

 晩餐会が始まったが、トマスの兄という男は現れない。


 トマス曰く、ショーンはどこかのグループに所属するのも嫌う、根っからの一匹狼らしい。

 会いたいと言っていたわりには姿を見せないとは、偏屈な男とは聞いていたが気分屋でもあるらしい。ある意味これも自由な精神というのか。


「やれやれ。まぁいいさ……」


 こちらから探す義理はない。

 私はまた談笑へ戻った。

 

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