dessert ― 甘味

第12話 性分

「いらっしゃーい。お疲れさま」

「ああ。お疲れ」

「どうだった?」


 清一は興味津々という表情で、いつものカクテルを差し出す。もうこのカクテルの隠し味の秘密も分かった。

 極上のカクテルを舐めるように飲む。

 

「無断欠勤が続いてるって状態だね。今のところ警察が動いた気配は無い」

「事件性がないもんね~」

「……だが、俺に今日、安田さんをどうした? と尋ねてきた人間がいたよ」


 俺の言葉に清一の目が光った。 


「へぇ。お友達だ。ラッキー。向こうから正体を現したんだね。誰だったの?」

「……同僚だったよ。人間って分からないものだな。まっとうな仕事をしているのに、どうして欲を出してもっと欲しがるんだろう」

「ふふ。その欲があるからこそ、成功を目指すんでしょ? だから、成功している人間が妬まれる。実くんは妬みの対象だったってことだよ。珍しい話じゃない」

「はぁ……。やれやれ。嫉妬されてるのは感じてたよ? でもまさか……だな」

「で、その同僚はどうしたの?」

「ん? 食事してきたよ」


 そう告げると、清一は目を大きく見開き、腹を抱えて爆笑した。


「笑いすぎだろ」

「くくくっ……。はぁ。嬉しいなぁ」


 笑いすぎて涙が出たのか目尻を指先で拭いながら言う。


「なにがだよ? そう美味くもなかったぜ?」

「実くんは昔も快楽主義者だった。その魂は変わってないね。どんどん昔の性格が表へ出てきてる。嬉しいよ」

「ふん。外ではストイックなお堅い弁護士として、法の秩序を守ってるんだ。滅多なことは言わないでくれ」


 そう言いながらネクタイを解くと、清一がカウンターを飛ぶように飛び越えた。いや、実際に身軽に飛んだ。

 俺の首筋に鼻を寄せ、ヒクヒクと匂い嗅ぐ仕草。それだけで濡れてくる。


「セクシーでゾクゾクするよ。あなたは最高だ」

「吸っていいぞ。腹がいっぱいだ」

「ふふふ。言ってることはちっともセクシーじゃないけどね」


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