第11話 終わらない物語

 朝もやの中、僕は涙を流す美しい人の膝に手を置いて顔を覗き込んだ。


「どうして泣いてるの?」

「実くんがまだ子供だからですよ」

「……僕が大人になったら、泣き止むの?」

「そうですね。あなたが僕と同じくらいに成長したら……」


 僕はその美しい人の膝に乗せた両手へ力を入れ、グイとつま先立ちになり背を伸ばすと、その濡れたほっぺにキスをした。お母さんはそうすると喜んでくれるから。


 彼は潤んだ瞳のまま僕を見た。その目に僕がいっぱい映ってる。


「じゃあさ、僕が大きくなったら結婚してくれる?」


 僕がそう言うと、ふわりと微笑んでくれた。


「……ええ。あなたが成長するのを待ってます」

「ほんと? 約束だよ?」

「約束します」

「……でも」

「どうしたの?」

「僕が大きくなった時、いなくなったりしない?」


 その人は天使のように優しく笑って目を細めた。


「大丈夫です。あなたの魂はきっと私を覚えているから」

「たましい?」

「あっ!」


 僕が首をかしげると、彼は急に小さく声をあげ、手のひらを僕に開いた。

 見ると手のひらには小さな血がぷっくりと浮かんでた。

 

 いい匂いがする。


 僕は鼻をヒクヒクさせて、誘われるようにその血をペロリと舐めた。


「……あまい」

「その味と匂いを覚えていて下さいね?」


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