第7話 手の中

 その声に我に返る。


 男はカウンターではなく、いつの間にか隣のスツールにいた。カウンターに肘を突き、その手に顎を乗せ俺を覗き込んでる。


「ああ。飲んだぞ。だから教えてくれ……」

「なにを、知りたいの?」

「おれは……、おれ……は……」


 唇は塞がれた。

 もう、彼が隣に座っていると気づいた時から。

 いや、店へ足を踏み入れた時から。


 俺はこれを、望んでいたのだろうか……?


「うっ……あああっっ!」


 カウンターに上半身を預けると、彼はなんの躊躇もなく俺の中へ入ってきた。

 キツイ。痛い。焼けるような感覚。


「……まだ、思い出さない?」

「はっ、はぁっ……な、なに……を?」

「自分が何者なのか」

「ど、どういう……ぐ、ああっ!」


 抉るように捩じ込まれる異物。背後から男に自分のモノを握られ、初めて己が怖いほど猛っているのに気づいた。それを優しく擦られながら、男の熱いモノで奥を突かれ犯される。


「あっあっ、やめっ、これじゃ、はな、し、できなっああっっんんっ!」

「ふふ。いい匂いがする……」


 耳元で吐息まじりに囁かれ、背中に悪寒が走った。

 男の唇は耳から首筋を伝い……


「うあ、あ、あっあっ、やぁっ……ああああっっ!」


 首筋に噛み付かれた瞬間、電気のような強烈な刺激が走り、俺は呆気なく達してしまった。ビクビクと浅ましく腰を揺らし、みっともなく悶える。


「はぁっ……はぁっ……ああっ……まって、まだ……あぁっ!」

「変わってないね……敏感なところも。好きだよ」


 囁きながら、まだ固いモノを押し込まれる。

 終わらない。この前と同じだ。

 俺はまた同じ誤ちを繰り返すのか?

 何故かその考えは、もっと身体を熱くするだけで……


「思い出してよ。……ほら、二人でこうやって……長い夜を愛し合ったでしょ?」

「なに、なにを……人ちがいだ……お、れは、知らなっ……うっんんっ!」

「毎晩、俺が夢に出てくるんじゃないの?」

「っんでっ……」


 何故、あの恐ろしい夢を見続けるのだろう。

 何故、夢に彼が現れるのだろう。いやあの夢に出て来るのが誰かなんて分からない。

 じゃあ何故、俺はここへ足を運んでしまったのだろう。


 何故、何故、何故……


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