第2話 誘惑
「うわぁぁぁぁっ!」
「きゃっ! あなた!?」
恐ろしい夢を見て目が覚めた。目の前は暗く、白い天井がボンヤリ見えるだけ。
「……あ、……すまない」
「また夢を見たの?」
「ああ。また、同じ夢だ……」
ベッドから起き上がる俺の背を、妻が慰めるようにさする。その手にホッとしながら申し訳なく思った。
妻の手の温度を感じる。背中から噴き出した汗を吸ったパジャマ。その体温は湿ったパジャマを通してじんわり染み込んでいるというのに。
「起こしちゃってごめん。水飲んでくるよ」
「持ってきましょうか?」
「いい。いい。寒いから」
寝室を出て、冷気に首をすくめる。
高層階のマンションの一角。リビングを抜け、キッチンへ入り冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
窓から射し込む月光。
暗闇に目が慣れてしまえば、その光はとても眩しい。
こんな真夜中だというのに全てを照らされてしまうようだ。
冷たいペットボトルを傾け喉に流し込む。内臓から冷える感覚。なのに火照りは取れない。
『もう一度、あの店へ行けば……?』
囁く声に耳を塞ぐ。
もう二度とあそこへ足は運ばない。そう決めたんだ。この完璧で、満たされた生活を壊すつもりなど毛頭ない。
クスッと小馬鹿にしたような笑い声がした。
『満たされた? そんなに飢えてるクセに?』
耳を塞いだところで、内側からの声が消えるはずがなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます