第3話 グランドマスター

 一美の一日の戦闘トレーニングは厳しい。ハードの一言に尽きる。

 ゲインズが与えたトレーニングメニューは次の通りだ。

 午前5時に起床、ローズ騎士団地球支部の宇宙船に行き、5時30分まで筋力トレーニング、休憩をはさんで、それから6時まで実戦を兼ねた基本アームズの練習、6時20分に家に帰って家族と朝食、身支度をすませ7時30分に登校、8時に学校に到着する。授業中は教師の授業を真面目に聞きながら二つ以上の思考を同時に行うマルチタスクの訓練も同時に行い、実際の戦闘を想定したシミュレーションを肉体と一体化したAエースリングが脳内に直接送信し、飛行、索敵、攻撃、防御などのあらゆるパターンを想定した高度な戦略と思考と同時に勉学を学習、途中休憩をはさみながら、実戦レベルの戦闘経験を中学校の座学と同時に習得する。放課後は女子サッカー部の部活で体を鍛える。家に帰って学校の宿題を騎士たちに教えてもらいながらすませ、家族と夕食、食後は騎士団地球支部の宇宙船に行き、筋力トレーニング、晴れた場合はドラゴンナイトAエースに変身して宇宙船の外で1㎞ランニングと飛行訓練、実践を兼ねたアームズの練習、騎士たちと実戦を兼ねたスパーリング(主に二人で相対して互いに技をかけあう練習形式)を途中休憩をはさみながら行う。終了後は入浴、10時に就寝する。ひたすらこの生活を繰り返す。一美は途中で投げ出しそうになりながらも真面目にコツコツとメニューをこなしていった。騎士たちは厳しい言葉をかけず、一美に優しく指導し続けた。


一美がローズ騎士団に入団して1か月がたった。一美はエクスワイア級の力を手に入れた。

 ある日一美はヴィヴィアンに尋ねた。

「ゲインズさんが惑星ドラゴは地球と似た星と言ってたけど、惑星ドラゴってどんなところなの?」

「簡単に言うと怪獣スモールドラゴンから進化した異星種族ドラゴ星人が住む惑星ですわ。環境はもちろんのこと、言葉も似ていますわ。銀河系にある惑星の言葉は日本語、または英語に似ていますわ。日本語に似た『銀河第一言語』と英語に似た『銀河第二言語』がありますわ。文字はひらがな、カタカナ、漢字に似た文字、アルファベットの4つですわ。数字はアラビア数字に似た数字がありますわ。また、高い科学技術を持っていて、自然と科学文明が共存していますわ。リサイクル技術も高いんですのよ」

「そうなんだ」一美は目を輝かせながらうなずいた。

「地熱や水力、風力や恒星力(地球でいう太陽)などの自然エナジーを使った発電所でエナジーを作っていますわ。自動車などの乗り物は水素エンジンと電気エナジーで動いているのですのよ」

「そうなんだ」一美は目を輝かせながらうなずいた。

「計算式も地球のものと似ていますし、学校の授業風景も似ていますわ。識字レベルも計算能力も身体能力も地球人と同レベルですわ」

「そうなんだ」一美は目を輝かせながらうなずいた。

「銀河には太陽と全く同じ恒星が1億個以上ありますし、地球人のような人型異星種族もいるのですのよ」

「そうなんだ」一美は目を輝かせながらうなずいた。

「自分の仕事の適性が簡単にわかるシステムがありまして、そのシステムの的中率は90%ですのよ。システムは強制ではないので、システムで決められた仕事に就くのもよし、システムに逆らって自分の付きたい仕事に就くのもよしですわ。」

「そうなんだ」一美は目を輝かせながらうなずいた。

「ところで『グランドマスター』はどういう人なの?」

「騎士団で一番偉い人ですわ。その人は人を見抜く能力がある人ですわ。人の言動やしぐさから、どのような人物でどのような適性があるのかわかるのですのよ」

「そうなんだ」一美は目を輝かせながらうなずいた。


 その夜、本部から通信があった。

「ローズ騎士団の皆さん元気にしていましたか?」

モニター越しに白いドラゴ星人の女性が現れた。グランドマスターのエイル・グリッターだ。

「はい、デイムエイル・グリッター」

「デイムブルースリー、一美さんの様子はどうですか」

「はい、もちろん大丈夫ですわ。学校もちゃんと行っていますし、勉強の方は私達ローズ騎士団が教えていますわ。勉学の成績も上の中ですわ」

「そうですか。忠告しておきますけど、一美さんの成績が下がったら給料5%カット」

「5%カットだとぉぉぉ!またいつもの合理的虚偽だろ」ザディームが反応した。

「冗談です。サー・キミノルフの言う通り合理的虚偽です」

「よかった。マジだったらヤベェことだよ」ザディームは胸をなでおろした。

 ちなみにローズ騎士団の平均年収は日本円にして800万円である。

「では明日の面談よろしくお願いいたしますね」

 と言って、エイルは通信を切った。


 三者面談当日、赤坂家の前へ騎士団の宇宙船が降り立った。宇宙船の中からエイルが現れた。

「あなたが赤坂一美さんですか?」

「はいそうです」

「私はグランドマスターをやっています。エイル・グリッターです。よろしくお願いします。」

「一美の母、美奈子です。お願いします」

 一美の母、赤坂美奈子はくるぶし丈のロングスカートでエイルとの三者面談に臨んだ。

「こちらこそお願いします」

「単刀直入ですみませんが、一美さんを騎士団に協力させてもらえないでしょうか」

「え」美奈子は目を丸くした。

「私達騎士団が地球に来た目的はカラミティリングの破壊ともう一つあるのです」

「もう一つって?」

「それは呪獣の殲滅です」

「呪獣とは何ですか?」一美は聞いた。

「呪獣とは獣戦士に似た特徴を持った人間とは異なる生物で、バイオテクノロジーによって生まれた怪物です。呪獣は獣戦士と同じ戦闘形態になることができ、基本アームズを使うことができます。身体的特徴として呪獣は戦闘形態になると目玉が特殊な膜に包まれ、目の色が一色になってハイライトや瞳がないように見えることと額と体のどこかに紫色の紋章があります。性格は基本的に平気で罪のない人間を傷つけ、命を奪うのです。星々を侵略し、略奪し、奴隷にしようと企んでいます。また呪獣の中枢神経は短い周期で危険な汚染物質を分泌し、環境を破壊します。また、呪獣は睡眠をとる必要がありませんし、麻酔も効かず、気絶もしません。生殖能力はなくクローンに意識を映して増えます。生命機能が停止すると爆発します。呪獣はカラミティリングを兵器として製造しています。4年前の惑星ドラゴで呪獣によるカラミティリングの実験によって、何100万人の尊い命が奪われました」

「そんな」美奈子は絶句した。

「呪獣は次のようにして生まれます。カラミティリングの毒素によって中枢神経が変異します。それが脳に起こり、脳が破壊され、人間だった頃の人格、意識、自我が消滅します。失われた人格を補うかのように、悪の人格と別の意識が生まれます。それと同時に脳が再生されます。なお、悪人格は人間だった頃の悪の心から生まれます。簡単に言うと呪獣になってしまうとその人間は死に、記憶や体、名前を呪獣に乗っ取られてしまうのです。中には人間の心が存在する個体もいます。人間の心が存在する個体でも彼らとは共存できないので討伐対象となります。私達騎士団は彼らと戦っているのです」

 エイルの話を聞いて一美もぞっとした。

「カラミティリングの話に戻します。カラミティリングの毒素はかなり危険で防護服を着ても、遠隔操作ロボットを使っても安全ではありません。なぜか地球人はカラミティリングの毒素の効果が薄く、地球人と異星人の混血では毒素の影響をほとんど受けません。カラミティリングは地球人の遺伝子を持つ人間を呪獣にすることはできません。その性質上、呪獣は全員異星人です。最近になってカラミティリングを安全に破壊するには地球人と異星人の遺伝子を併せ持つ人物が必要であることが分かりました。一美さんを勝手に騎士にしたことを謝罪します。カラミティリングを安全に破壊するには地球人のクォーターである一美さんが必要なのです。どうか協力お願いできますでしょうか」

「私は嫌です」

「お母さん」美奈子は断った。

「そんな血なまぐさいところに娘を行かしたくありません。夫を亡くし、女手一つで一美を育ててきました。娘の未来を奪われたくないのです」

「私は騎士団に入団してよかったと思うの。こんな私でも人の役に立ててうれしかった」

「強制ではありません。娘さんは命に代えても必ず守ります。」エイルは深々と頭を下げた。

「そんな困ります」

「私もお母さんに心配かけないようにするから。お願い」一美も頭を下げた。

「分かりました。協力します。ただし、娘に無茶はさせないでください」

「約束します」とエイルは言った。

「一美さん。あなたに差し上げます」

 ペット用の籠からドラゴン型の生物が現れた。

「サポート用機械怪獣マシンスモールドラゴンの『スー』です」

 スーは一美の頭にちょこんと座った。

「機械生命体は別名機械族と呼ばれています。機械族とは生まれつき水冷式電子頭脳、筋肉、機械の臓器があります。生物と同じ肉体の大半は水でできています。飲食でエナジーを生産していますし、成長もします。アンドロイドがこの機械族に当てはまります。もちろん防水機能もあります」

「ありがとうございます」一美はエイルにお礼を言った。

「お忙しい中ありがとうございます」そういうとエイルは宇宙船に乗り、惑星ドラゴへ帰っていった。


 その一週間後、ローズ騎士団後持つ球状ドローンから呪獣の目撃情報があった。

「ローズ騎士団、出動ですわ」「了解」

 騎士団が駆け付けるとそこには、カラスのような怪獣「クロウガー」とカラスが人型となった怪物の軍隊が暴れていた。

「クロウド星人が呪獣化したやつか」ザディームは言った。

 騎士団のメンバーは呪獣に向かっていった。

 一美がクロウガーと戦っているとき、ファイアバレットが一美に向かって飛んできた。一美はそれをジャンプしてかわし、飛んできた方向へ向く。そこには、クロウド星人の女性呪獣がいた。エクスワイア級の一般兵だ。

「今のをよけるとは。これはどうか」

 今度は呪獣の指からウォーターバレットが飛んでくる。一美は高速で左に動きかわす。呪獣は急接近して、一美にパンチを繰り出す。一美はそれを左に動きながらかわし、呪獣の右腰に向かってファイアバレットを打ち込む。

すると呪獣の右腰が燃え上がる。呪獣は右腰をウォーターバレットで火を消しているすきに、ファイアバレットを打ち込む。2000度のファイアバレットは呪獣にヒットした。

「ぎゃあああっ」呪獣は断末魔の悲鳴を上げながら絶命、爆破炎上した。

 騎士団の活躍によって、呪獣は退治された。

 一美は線上にぽつんと立っていた。

「安心してくださいませ、彼らは人間ではないのですわ」

「はい」

 そう答えると一美は家に帰るのであった。







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