第6話 流れる雲は風のゆくえ
11歳の誕生日。好きな食べ物や、プレゼントと思わしきパッケージを見つけてはしゃいでいた。まだまだ子供だなあなんて言いながら、お父さんとお母さんは私のケーキを取りに行った。
大雨警報が出ていた。
夜の10時を過ぎた頃おばあちゃんがアパートに来てお父さんとお母さんが死んだことを伝えられた。
ちょうど幹線道路で大雨のせいでブレーキが効かなくなったトラックが突っ込んで軽自動車がぺちゃんこになっているニュースが流れていた。ナンバーは私の誕生日。お母さんの車だった。
それからいっぱい大人の人がたくさん来てお葬式が始まって、私はなんだかよくわからないうちに一人になったみたいだった。
まだ小さいのにとか、可哀想にっていろんな人が言ってくれたけど。私は何が起こっているのかよくわかってなかった。
色々なことを察せという大人の雰囲気が怖かった。
車がぺちゃんこになっていたからきっとお父さんとお母さんの体もトムがジェリーにハンマーでしたようにぺちゃんこになってしまっていて、そんな状態じゃ子供には辛いだろうってことで遺体を見せないことになったのだろう。
誰が入っているのかわからない、2個ならんだ木で出来た箱はしっかり閉じられていて最後のお別れしてねって前に突き飛ばされるように押し出されたけど、なんの感傷も起きなかった。やたらと線香の匂いが鼻の奥に突き刺さった。
未だにお父さんとお母さんはケーキを買いに行っていて、私の誕生日のナンバーのついた軽自動車でそのうち帰って来るんじゃないかと思ってしまう。
おばあちゃんと暮らした時間はそれはそれで楽しかった。私たちの住んでた都市部から車で30分走った山の麓の集落がおばあちゃんの家だった。
近所の人はみんなおじいちゃんかおばあちゃんで私は小学校にスクールバスで通った。小学校も中学校も一緒の小さい学校だったから、みんなが兄妹みたいな距離間でお話していた。私は一人っ子で正直お兄さんという存在がうらやましいと思っていたので、中学生のお兄さんに甘えてみたりした。そんな日常は、お父さんもお母さんもいなかったけど、ご飯を食べればおいしいし、明日のことを楽しみで眠れない夜を過ごしたこともあった。
そんな日々を過ごしていたのに、14歳の誕生日の時、ふと思った。私が大人にならければお父さんとお母さんはケーキを取りにいかずに死なずに済んだんじゃないかって。
その時全校生集まっての(といっても10人もいないが)誕生会が開かれていて、私は金色の折り紙で作った輪繋ぎを下級生の女の子から掛けられるために頭を下げていた。そのまま、目から涙がこぼれた。私はこれからきっと毎年誕生日の度に大人になったことを悔やむのだろう。
「辛かったね。」
目に少し涙を浮かべながら瑞佳は言った。
「ごご、ごめんね。なんかしんみりさせちゃって!私の方がお姉さんなのにね!」
私はこの話の結末を想像せずにテスト結果の愚痴を言うみたいについぽろっと生い立ちを話してしまった。ペットボトルの封を開けたまま、右手に握っていたホットカフェラテはいつのまにか冷めていた。
「瑞佳ちゃんは最近辛そうだけどなんでも聞くよ。」
「私は・・・」
何か考え込むようにうつむいてしまった。手に持った午後の紅茶ミルクティーのペットボトルを焦点が合わない目で見つめている。10月の日差しはまだ暖かく、黄色く染まったイチョウの葉がセロファンみたいに地面を黄色く染めている。
「私は・・・ちょっと親友と話せてなくて・・・」
どういう風に伝えようと考えているのか腰を浮かしたり足を伸ばしたりそわそわと姿勢が安定していない。
「いいよ、ゆっくりで。言ったら楽になるから、じっくり聞くよ」
瑞香は不意にこっちに座り直してゆっくりと言った。
「魔法少女のことって私たち以外で誰かに言ったりしたことある?」
「え?ない、けど・・・」
「だよね・・デモンズ高橋くんの乱で親友と話が拗れちゃったんだよね。」
「どんな風に?あの一緒に倒したイケメンに擬態してたやつだよね?」
「そう、私は全然好みじゃなかったけどね。その人と付き合ってるって思われたみたいで。」
メガネ越しに覗く茶色の瞳が少し潤んでいる。
「あー色恋沙汰かー」
「色恋沙汰っていうか・・・多分勘違いしているっていうか・・・」
もにょもにょと歯切れが悪い言い方をする。
「その親友ちゃんはあのデモンズが好きだったの?」
「ううん、そう言うのじゃなくて、多分ずっと二人で一緒だったのに、急に変な男が入り込んで来たらなんていうのかなぁ・・嫉妬とは違うけどなんて言ったらいいのか・・・」
「いや、それは嫉妬で良いと思うよ。あーなるほど、でもデモンズだったから魔法少女に近づいて来たって説明できないってことか。」
「そう!」
初めて聞くような声量で瑞香は声をあげた。そして自分で出した声量に驚いて恥ずかしそうに少し俯いた。
「それを上手く魔法少女ってことを隠しながら伝えるのって難しくて。」
「うーん。そうだね。普通に別れたって言ってもダメなの?」
瑞香は大きく首を振る。
「そもそも話を聞いてくれなくて。あのデモンズ自体排除したから不登校って感じになってるし。他の人伝に伝わればと思って別れたっていうかそもそも付き合ってないって言って回ってるんだけど・・・」
「それでもダメなんだ。難しい年頃だよね。中学生って」
「うん。他の人ともほとんど話してないみたいだし。どうしたらいいのかわからないんだ。」
瑞香は少し諦めたように笑っていた。風に揺れるセロファンがカサカサと音を鳴らす。その度に柔らかい日差しが彼女の少し茶色が入った長髪を照らす。
「ねえ、六花ちゃんは好きな人っている?」
急にドキッとする質問を投げかけられた。
「え、あ、うん。まあ、そのいるかな。」
「同じ高校?」
「え、あ、うん、そう」
私は咄嗟に嘘をついた。この後の展開をなんとなく察したからだ。
「女の子が女の子を好きになるっておかしいかな?」
時間が止まったような気がした。バクバクと心臓が音を立てている。
「それって、もしかして、瑞香ちゃんは、その女の子のことを・・・」
少し瑞香は頬を染めた。
「・・・うん。多分そう。恋って今までしたことなかったけど、多分この気持ちはそう、かも。」
耳の奥が熱い。次の言葉を探してしまう。
「やっぱり、おかしいよね」
「そんなことない!女の子同士でも全然今は普通だと思うよ!」
私は思わず拳を握り、立ち上げってしまった。右手に持ったペットボトルからドバッとカフェラテが吹き出た。その様子に瑞香はビクッと身体を硬直させた。
「あ!ごめん...なんか今日あれだな。ごめん、ごめんね。」
正直今日下心もなくノコノコ東北本線を1時間もかけてやってきたわけではない。
私は瑞香が好きだ。
元々女の子が好きというわけではなく、ジャニーズの中島健人がタイプだった。
なんでそうなったのか気持ちというのはわからない。いつも集会では端っこに座り、ニコニコとみんなの意見を聞いているだけで最初はなんの印象もなかった。
ただ、デモンズと戦っている時はいつも最前線で献身的に主力として戦うだけでなく、周りへのアシストも上手かった。
時折普段の彼女からは想像できない様な強い声で雄叫びを上げていた。その姿に強い生への意欲を感じた。その姿に自分も生きていたいと強く願うようになっていた。
それから次第に彼女を目で追う様になった。
出来の良い妹を見守る姉の様な気分で遠巻きに眺めていたが、おしゃべりする様になるとまた惹かれていった。
楽しそうに今日学校で起きたことをニコニコと話す時に、明日の宿題に顔を暗くしている様子に、デモンズの首を刎ねたその佇まいに。
私は素直にこの気持ちを受け入れ、あわよくば瑞香と恋仲になりたいと思っていた。同性だから、という負目は一切なかった。寝ても覚めても瑞香の事を考えてしまう。こんなに自分が一途なタイプだとは思わなかった。
「じゃあさ、私の能力でその親友ちゃんに変身してさ。話しかける練習とかしてみる?」
「え?」
「いや、そうか、ごめん。練習も何もないよね。話してくれないんだし」
私は瑞香の好意を受けられるのであれば恋敵の姿にでもなる。そのぐらい瑞香のことを愛している。
私の能力は誰でも一度でも見た人に変身出来ること。
デモンズ戦ではあまり役に立たない能力だったが、[擬態したデモンズ高橋くんの乱]では私は瑞香の担任の姿に変身し、二人でデモンズを倒した。
「六花ちゃん。私は、全部話せるこの時間だけで十分救われてるんだよ。六花ちゃんいつも一生懸命になんとかしてくれようとするその気持ちだけで嬉しいよ」
瑞香はニコッと笑って自分の隣のスペースをぽんぽんと叩いた。
少し恥ずかしくなったが、そこにすっと座った。
ん、今のってもしかして行けたのでは?いや、直前まで別の好きな人の話してたし、また混乱してきた。
「六花ちゃん、人を思う気持ちって何だろうね。苦しいし、夜眠れなくなるし、こんな気持ち無くなっちゃえばいいのにって思うよ」
「瑞香、ちょっと、それはネガティブすぎるよ!大好きな気持ちが伝わらないのは辛いことかもだけど、しんどくても、諦めなければ、いつか、必ずとは言わないけど、可能性は絶対に0にはならないんだよ。思い続ければ、絶対に0にはならないんだ。だからそんなこと言わないで」
私は自分に言い聞かせるように少し大きめな声で言った。
「...そっか。そうかもね。0にはならないかもね。あきらめたらそこでしあいしゅうりょーってね。」
瑞香は少し笑った。たぶん、0に限りなく1だということを自分の中では確信している。でも自分を偽ってそう思わせている。
そんな自嘲も入った笑い方だった。
私は私で0であって欲しいと思っていた。最悪な考えかも知れない。
でも、万が一でも瑞香の心のベンチが空いた時に、私を瑞香の隣の席に「ぽんぽん」と叩いて呼んで欲しい。そんな気持ちの方がもっともっと大きかった。
ただ、ついにそのベンチに私が座ることはなかった。
物理的に不可能になった。
考えたこともない、いや、正確にはデモンズがいた頃には想像を一度はしたかも知れないが
瑞香が亡くなったのだ。
しかも完全にデモンズがらみの事件で。
「あんた!そもそも瑞香といっしょにいたんじゃないの!?」
変身コンパクトに向けて怒鳴りつけた。
「いやー、その、あちき、セーブモードっていうか、引きこもりって言うか四六時中一緒にいるわけじゃないー、今回も私がいないとこで起こったって言うか」
「言い訳聞いてんじゃないの!どうせまたパチンコなんか打ちに行ってたんでしょ!」
「いやー、最近パチは辞めてペルソナのスロにしてて...」
「だからそんな話してるんじゃない!比較的近くにいたあんたがなんでデモンズの気配を感じ取れなかったのかってことが言いたいの!」
「あー、そのー、私デモンズ戦が終わってからなんて言うかセーブモードっていやつで、わかりやすく言えば人間で言う日中逆転生活と言いますか....」
「寝てて気が付かなかったってこと!?」
「あ、は、はい、端的に言えば、いやー雰囲気的には寝てなかったと言うか、起きてる気配はあったと言うか、あ、はい。寝てました。」
私はコンパクトをギリギリと握りしめた。
「あんたがしっかりしてれば瑞香は死ななかったかも知れなかったのよ!なんでそんなフワフワした感じなのよ!!!」
「いや、私も責任は感じてる」
急にふざけた声が真面目なトーンになった。
「だからこの件は必ず決着をつけないといけないと思ってる」
「ーっ!」
この怒り悲しみ苦しみの矛先を一瞬見失いクローゼットを左手で叩いた。
「とりあえず、犯人探ししましょう。一旦会って話さない?あんたの作るアップルパイ好きなのよね!」
さっきまでのトーンとは大きく変わった明るく浮かれた声でアンジェラは言う。
「...わかった。明日講義が午前中で終わるから午後からならいつでも」
「ok!!!じゃあ14時ごろにそっちに現れるから部屋にコンパクト置いておいてちょうだい。」
「...ええ。わかった。」
一つ気になる会話があった。
犯人?
デモンズじゃなくて?
「で、犯人って何よ?」
アップルパイを顔のそこらじゅうに引っ付けた アンジェラに問う。
「犯人?なんの?」
こいつはとぼけているのか、本当に忘れているのか本当にわからない時がある。
「あんた昨日犯人探ししましょって言ったじゃない?」
「ん?そんなこと言った?」
「言った。デモンズじゃなく、はっきりと犯人って言った。」
「あ、あー...あーはいはい!言ったような言った、言った。言いましたわ〜。これシナモンもっとかけていい?」
「話逸らさないで、シナモンはあげない。満足がいく回答があったら死ぬほどかけてあげる」
「いやー、私なりに考えてたんだけどデモンズって現れたら現れっぱなしじゃない?今回は、少なくとも私が気が付かない程度にしか出現してなかったってことでしょ?なんかそれって一瞬変身して戻ったみたいな感じじゃないかなって思ったのよね。ねえシナモン」
「で」
「要するに魔法少女のデモンズ版みたいな...イメージ?だから本体は人間だけど...あれ、これ、ほぼ言って....おや...これは...」
最後はごにゃごにゃと濁していたが、
「要するにデモンズ側の魔法少女が出現したかも知れないってことでしょ?」
「そう!それ!シナモン!」
私はわざとアンジェラの顔にかかるようにシナモン振りかける。
「ありがとう!でも私の顔はアップルパイじゃないから!」
こいつは悪意も善意と捉えられる素晴らしい救世主なのだ。
「誰が、なんのために?」
「そんなのー、簡単じゃないー、デモンズと同じ行動原理ってだけじゃない。多分魔法少女が障害になると思ったんじゃない?」
「なんで瑞香が?」
「運が悪かったから?そこは見当もつかないわ」
運が悪かった?私の両親が死んだ時もそう言われた。運って何?それで納得できるほどの理由になるの?運って。
「まだ近くにデモンズ少女はいるかも知れないわよね。」
「えー、まあ、多分。でも、探して回ってるのかもよ、魔法少女を」
皿いっぱいに乗っていたアップルパイはすでに半分になっていた。
「たまたま瑞香を見つけたってこと?」
「さあ、その辺は検討つかないわ。なんて言うか私たちがデモンズを検知出来るようにあっちもできるのかも知れないわね」
「犯人は日常を過ごしていたらたまたま瑞香の魔法少女の気配を感じた、で、殺した?」
「おおまかに推理するならそうね。もっと計画的かも知れないけどね」
「とりあえず、瑞香の家に行ってみるわ。講義もあるから行ったり来たりになるけど。変身して飛んでいってもいいけど探知されて一方的に攻撃されても嫌だから電車で行くわ。」
「まあ、その辺はあんたに任せるわ」
「ーっ!あんたもそうだけど他の連中も全く興味ないわね!この件!」
「いや、あちきは、あちきはあるけど、でも他の連中連絡すら来ないわね。ニュースでやってるのにね」
「本当よ!!薄情なやつらね!」
「あんたは少し熱が入りすぎてる気がするけどね」
そりゃそうだ。未だに引きずっている女の子が何者かに殺されたんだぞ!
と、声に出しそうになったがこいつにいっても見当違いな返答しか来なそうなのでやめた。
「まああちきもあっちで探ってみるよ。暇だし」
「ねえ?あんたってコンパクト間でワープしてるのよね?」
「ん?そうだが」
「今は誰のとこにいて誰のコンパクトのところに移動するの?」
一瞬動きが止まったが、ふと思い出したように、パイの中のリンゴの塊を引きずり出してしゃくしゃくと食べ始めた。
「瑞香のよ。まだ遺品整理してないみたいね。私もまだ魔法少女の力吸収してないし、それをするまではワープは可能よ」
「ふーん」
こいつは明らかに何か知っている。
この事件の根底の何かを。
デモンズを倒すという目標についてはこれまでの戦いの中から疑う余地は無かったが、この件に関しては私はこいつ容疑者Aと思い始めている。
こいつは信用ならない。全てを鵜呑みにしては行けない。
何年も探す覚悟もしていたが意外と早く、と言っても時間を見つけて移動していたので2か月位で真犯人を見つけた。
瑞香の亡くなった中学の献花台の前でコンクリートにお尻をつけないように座り込んでぶつぶつ喋ってる女がいた。明るめな金髪でピンクのインナーメッシュが入った髪は下校途中の中学生の真っ黒な黒髪の中で目立っていた。
一歩づつ進むたびにその気配が強くなっていく、デモンズのどす黒いそれだ。
私は一つ掛けをした。彼女の真後ろで変身したのだ。変身したのは私に金折り紙の髪飾りをかけてくれたあの女の子。
しばらく、彼女の後ろに佇む。
ここまでの距離にくればわかる。彼女はデモンズだ。
そして彼女も私が魔法少女であることがわかるはずだと。
しばらく時が流れた。2、3分だったかも知れないし、10分くらいかも知れない。
振り向き様に私も殺されるかも知れない。ずっと緊張していた。
いつまでもこの時間に耐えられず、私は声をかけた。
少しその子は驚いたみたいに振り返ったが、それ以上に私も驚いた。
瑞香の好きだった子だ。
どうして殺した!って問い詰めたかったけど、あくまで冷静を装った。
「あの、瑞香さんのお友達ですか?」
「え、ええ。昔の、いや、今も親友よ」
どの口が!と悪態をつきたかった。色々な感情が複雑に浮かんで整理がつかない。
「瑞香の知り合い?」
私は素直に頷いた。余計な言葉を言わないように言葉を慎重に選ぶ。
「はい、瑞香おねえさんは以前にお世話になったことがあって。大切な人でした。また会いたかった。」
お前のことは絶対に私が殺してやる。
瑞香の愛を独り占めしたくせに、その上で殺すなんて。絶対に殺してやる。
「本当に残念です。痛かったかなとか、辛かったかなとか考えると余計に胸が痛くなります。」
「....そうね。」
「犯人まだ見つかって無いんですよね。こんな事をして逃げてるなんて許せないです。」
私があんたの立場だったらもっと瑞香を幸せに出来たのに。なんで、瑞香はこんな女を好きになったのかわからない。
「そうね。許さないわ。」
私が思いつく限りの酷い目に合わせて絶対に殺してやる。
「....お姉さんも同じ気持ちですか。よかったです。夜になっちゃうので私帰りますね。失礼します。」
私は帰り際、いつ後ろから攻撃されるか完全に背後に注意集中していた。
でも結局駅についても何も起きなかった。
「あいつは魔法少女を探知できないんだ。」
じゃあなんで?
「アンジェラか....」
あの二人はおそらく仲間同士。それを気づかれてはいけない。私の魔力が取られるかも知れない。こっそりと、慎重に、
いや、もうそんなことはいい。やりたいように、苦しめてやりたい。
私は上り電車に乗るのを辞めてハブ駅の近くにホテルをとった。
明日、じわじわと、痛めつけて、後悔させて、謝らせて、命乞いされながら、殺したい。
興奮で、結局朝まで眠れなかった。アンジェラには伝えない。おそらく襲撃を密告するだろう。
シャワーを浴びる。
全然寝ていないのに、9時間寝た後のように頭が冴えている。
私は魔力で剣が出せる。正確には今まで見たことのある物に体の一部を変身させている。改めて魔力で剣が出るか確認をする。今回は爪を犠牲にして包丁の形にした。
出した包丁を四方に振る。
何も不具合はない。今日は絶好の殺陣日和のようだ。
昨日会った時に制服を確認して県内高校一覧からどこの高校に通っているのか、そして瑞香と同じ中学だったことからこのハブ駅を使って通学しているのは簡単に想像できた。
あとは彼女が来るのを待つだけだ。
このハブ駅は彼女の高校方面から来ると終点に当たる駅、下り方面の電車が止まる駅のホームのベンチに腰掛ける。隣に瑞香がいる気がした。心配しないで、絶対仇は取ってやる。
何本も電車が行って4時ごろ、あの高校の制服の集団が降りてきた。このまま地元行きの電車に乗り換えるだろう。
と、思ったが、駅から一度出て買い物をするようだ。suicaのピッと言う軽快な音と共に颯爽と出ていくインナーピンク頭はまっすぐ本屋に向かって歩っていく。
私はこいつがみんなの前でのたうち回って苦しんでいる様子を思い浮かべた。
その様を目を伏せて通る大人、動画を撮影する高校生、そしてSNSで拡散されてこいつの無様な死はエンターテイメントとして永遠に残る。
そのくらいしないと瑞香の罪は償えない。
私は昨日の少女に姿を変えタイミングを見計らった。
もう一枚爪を変身させて100均の包丁を出現させる。その時、不意に彼女が歩みを止めた。
私ははずみでそのまま彼女の脇腹を刺した。
もっと致命的な、首筋あたりを切り付けるつもりだったのに、手元が狂うとはこのことか。
私はすうっと昨日止まったホテルの従業員に姿を変え、彼女の横を通り過ぎる。
少し間があって誰かの悲鳴が聞こえた。
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