第3話 物語の始まり
「なんだー!こいつ!グッロ!!!」
意識が飛んでいたようだ。どのくらい時間がたったかわからない。相変らず全身に力が入らない。重い瞼を開けると光る人形が顔を歪めてでふわふわ飛んでいる。
「グッロ!まじで!グッロ!あかん、あかんやつや!レーティング変わる!」
なんだこいつ。
光る人形は私の周りをうろうろ飛びながら罵声を浴びせ続ける。
「ねえ、あんた天使?」
怒鳴ってやりたい気分だったが、ようやく絞り出せた。びくっと光る人形が反応する。
「うわ!生きてんのかよ!生きてんのかーい!不死身かよ!」
こいつまじでうるせえな。
「ねえ、今私どんな感じ?死にそう?」
「死にそう?いや死んでると思ったよ!腕!変な方向!お股に血だまりできてるし!車に轢かれたん?」
そうか。死にそうなのにまだ死んでなかったか。最悪だ。変に生き残って変な後遺症とかでたらマジで最悪だ。
「せっかく禍々しい気配を久々に感じてやってきてみれば、グロ少女がグロさ満点で転がってるってここは地獄ですか!」
「あんた何者なの?天使じゃないとしたらなんなの?悪魔?」
「悪魔って誰に向かっていってんじゃああああ!!!真逆!真逆の存在じゃあああ!最悪よあんた!せっかく久々のデモンズにありつけると思ったのに!」
「悪魔の真逆って天使じゃないの?悪魔の真逆で天使じゃないやつって何?妖怪?虫?」
次第に意識がはっきりしてきたを感じた。
「あああーせっかくもーーー!!!最悪だわ!!なんでごちそうだと思ったのに
グロ少女に悪口言われなきゃなんないのー!!」
「まじで、そろそろ何物なのか教えてよ」
このテンションに付き合うのもしんどい。節々の感覚が戻ってくると同時に激痛が襲ってくる。
「私はアンジェラ!人間の生み出した無意識の救世主様よ!」
やばい、全然意味が分からない。でも、
「アンジェラってAngelからでしょ。天使じゃん。」
「ちーがーーーうーー!!無意識の救世主!!」
救世主!蛍みたいなやつが自分を救世主などとC教なんかで言ったら冒涜も甚だしい。少なくても十字架に張り付けられるような身長はない。
下腹部と左手の痛みが今まで感じたことなく痛い。生きていることをこんな形で知らしめられるなんて。
「・・・救世主様、どうか私をこのまま楽に死なせてもらえませんか?」
「なんでー!死んだらやばいじゃん!」
いや、今の状態のほうがやばいんだけど。
「いま、ものすごく、全身が痛いんです。お願いです。死なせてください」
「え、何それ怖い。え、私言ったよね。人間の救世主って言ったよね?」
「だから、私が安らかに眠れるように、眠るように死なせる魔法とかで・・」
「無理無理。そういうの専門外なんで。あちきサポートしかできないし」
ズキンズキンと脈に合わせて痛みが増す。耳の奥が熱い。ギューッと目をつぶる。
「・・じゃあ分かった。ケガ直して」
「あ、そういうのも無理。今カツカツなんだよねー」
「じゃあ何ができんだよ!この虫が!!」
こんな大きい声がまだ出せるとは思っていなかった。もしかしたら今の声で誰か来てくれるかもしれない。
「ひっどーーーい!!!!虫じゃないもん!ちゃんとデモンズやっつけたもん!」
「・・・私もデモンズやっつけてやるから、お願いだから、ケガ直すか、殺すか、どっちかして」私は途切れ途切れに言葉をつないだ。
「あー、デモンズもういないんだよねー。ついでに言うとケガ直すことも可能っちゃ可能なんだけど今本当にカツカツっていうか、何つうか無理なんだよねー」
こいつ市役所の受付みたいな対応ばっかりしやがって。だんだん腹が立ってきた。
「じゃあ、なんでも言うこと聞くからとりあえずケガだけでも直してもらえない?」
「言うこと聞く?愚痴を聞いてくれるってこと?」
こいつ意言葉のニュアンスも伝わらないのか。
「じゃー聞いてもらおっかなー。最近人間とも話してないし!」
電話に出るときのお母さんのように明らかに声色が変わった。
「私はさっきも言ったけど、人間たちの無意識の救世主なの!デモンズっていう人間の生み出した悪意を糧にする魔物から、自分たちを守るために人間の無意識の防衛本能が生み出した存在なの!みんな、誰かに守ってほしいって思ってる気持ちが具体化したわけってことね!だからみんなが想像する救世主、天使みたいな姿ってわけ!」
「あの、長くなるなら先に痛みだけでも・・・・」
「それでね、デモンズをやっつけるために毎回魔法少女を選出して戦ってもらうんだけどいつもは王を倒す前に全員やられちゃってたわけ、でもね・・・・今回はいっぱい選出したから、ついに!われわれが!勝利したのだ!!!」
もう痛みは限界だ。私は息も切れ切れになっていた。
「ただねぇー。今回勝つなんて初めてのケースだったでしょ。魔法少女のエネルギーは私が補っているんだけど、これまではデモンズを倒したときにデモンズの魔力を吸収してたからトントンだったんだけどいなくなっちゃったから今は私の魔力だけで賄ってるわけ!あちきはいつもおなかぺこぺこってわけ!」
はたから見たらなんてシュールな場面だろう。グロ少女が光る人形に愚痴を聞かされながら死にかけているのだ。
「で、私がぺこぺこなだけならいいんだけど、私の魔力はすべての人間自体から吸収してるから最終的には人間自体に悪影響が出ちゃうみたいなの!本末転倒じゃない!」
「・・・魔力を吸収されすぎたら人間はどうなるの?」
「もう結構な数出てるけど、無気力になっちゃうのよね。うつ状態っていうの?」
「じゃあさ、魔法使いやめさせればいいんじゃないの?」
「結局、死なないと解除できないんだよねー。ここまで人数が残るとも思ってなかったよーあの子の能力のせいか全然死ななかったし。」
「・・・じゃあさ、私が全員殺してあげようか?」
一瞬静寂が訪れた。
「え、今なんて?」
「あなたが自分の意志で解除できないのであれば私が解除するお手伝いしてあげるって言ったのよ。私はこの世界に鬱憤がたまっているし私が殺したいから殺すの。あなたは何も責任はないわ。どう?けがを治してくれない?」
「いや、いや、いや、いや!それはーーー。」
おだてられた会社員のように大げさに手を振りながら首をぶんぶんと振っている。
「あなたはとりあえず、アドバイスをしてくれるだけいい。殺すところも見なくていい。ねえ、今の話って悪い話かしら。人間の無意識の救世主が結果人間に害悪なものって最悪じゃない?その原因を知っているなら排除する責務があなたにはあるんじゃないの?それってあなたは自分の責任を果たしただけで何も悪くないんじゃない?」
つい、この痛みを早く終わらせたくて早口で捲し上げた。
「・・・そうなのかなあ???」
「そうよ。」
「でも苦楽を共にしてきた仲間だからなー」
「あなたは人類の脅威を排除する必要があるんでしょ?今、その子たちが一番の脅威じゃないの?その子たちが人間に危害を加えるのを知ってて放置しているほうが心が痛まないかしら?」
「え、ああ、はあ、まあ」
「あなたは優しいのね。もう悩まなくていいの。すべて終わらせてあげる。」
「じゃあ、お願い、しちゃおっかなあ・・」
一瞬視界が真っ白になるほどの痛みが走ったが、次の瞬間全身に感覚が戻り、変な方向を向いていた腕も力が入るようになった。左手でグーとパーを作って感触を確認してみる。問題なさそうだ。
積もった雪や、枯れ葉がまとわりつく。オーバーサイズのパーカーに着いたそれらを落としながら私は立ち上がった。
「じゃあ契約完了ということね?」
「おう!そうなるな!よろし・・」
私はその救世主を思いきり握り上げた。
「きゅー」
変な声が漏れた。おもちゃみたいな音だったのでフッと吹き出してしまう。
「アンジェラ。いろいろと契約の更新が必要みたいね。ついでに契約の詳細ももっと詳しく教えて欲しいわ」
「わがった・・・・くるじいい」
「さっきはよくも死にそうな私にペラペラとおしゃべりしてくれたものね。だからこれはお返し」
ふっと力を緩めるとアンジェラはすぐに手から飛び出した。
「おんめえーーーこのサイコパスが!!」
「まあまあ、これでおあいこってことで」
「おあいこなわけねえだろー!!私がダメージ受けたら人類の・・・」
「わかったわかった。」
薄暗くなって街灯がつき始めた街を私は見渡した。辺りには誰もいないようだ。
「あんたってほかの人にも見えるの?」
「見えないよ。基本的には魔法少女にしか見えないはず。」
「そう。じゃあ私は独り言しゃべってるおかしな奴に見えるってことね。場所かえない?」
「ちょっとその前に確認だけど、魔法少女をみんなアレしてくれるって言ったのは?本当なの?」
「そうよ。これからその話をしましょう」
散らかった自室に入りベットに腰を下ろす。飛び降りたのはもう2時間も前の事だった。机の上の遺書を机の中にしまう。
「で、さっきクーリングオフ的なこと言ってたけど、具体的にはなに?マジで変な奴助けちゃったわ」
「契約の更新の話?そもそもどうやって倒せばいいの?」
アンジェラはわざとらしくデカめの溜息をつく。
「そういうのもお任せで契約したんだけど。」
「魔法使える女なんてどうやって殺すのよ。ナイフで刺したら死ぬの?」
「変身前の人間の状態では死ぬわね。正確には魔法少女の状態で殺してほしいのよね。人間の状態で殺すと魔力が四散して回収できないのよね。」
「ん?じゃあ死んだ魔法少女の力は回収してるの?」
「そうね。今回は10人選出して3人死んだから3人分の魔力は吸収してるわ。それでも最後のデモンズ戦から結構空いてるからその3人分の力もほかの魔法少女に吸収されつつあるわ」
アンジェラは部屋のアニメグッツと化粧品を交互に眺めている。
「じゃあ、その3人分の魔力で私を魔法少女にしてくれない?」
はーって顔をしながら香水の瓶を倒した。
「ちょっと話聞いてた?もう吸収されつつあるって」
「逆に絶対的な力があれば短期戦で望めるんじゃない?10年も20年も続けたいの?」
「それは困る!えーーーでも、えーー、でもなあーーーー」
倒した香水の瓶を全身を使っててこの原理で起こし上げる。
「その力があったとして、逆に何年で7人の魔法少女を倒すつもりでいたの?」
「魔法少女ってせめて十代じゃない?私今16歳だから4年以内ってところ?」
「4年かーーー。どうかなーー正直厳しいかな?わからんなーー」
「じゃあ、魔法少女を倒すたびに力を吸収させてくれれば、さらに強くなれるんでしょ?高校卒業までの間とかどうかしら?」
そういえば不登校だったと気づいた。まあ、ダブったら1年延びるからいいか。
「2年か。それなら何とかなるかな?じゃあそうしましょうか。」
「じゃあ改めて契約更新ね。私はまず3人分の魔力を持った魔法少女になる。そしてその力で残りの7人の魔法少女を殺す。魔法少女を殺すたびに私はその力を得る。そして、7人殺す期間は高校卒業までの間。」
「二年以内ね。高校ダブろうなんて思ってないよね?」
利己的なことには意外と頭が回るやつだな。
「そうね。2年以内」
「あちきからも契約の更新いいかしら?」
気まずそうに香水の瓶の蓋を手でなぞっている。
「まあ、要するに7人、いや、10人分あなたが魔力を吸収した際は・・」
「わかっているわ。魔法少女の状態でどうにかして自殺すればいいのね」
ぱーっと顔が明るくなる。
「そうそう!わかっててくれて嬉しいわ!あと、もう一つ。私たちは・・」
「人間の無意識の救世主」
「そう!あんた頭いいわね。無意識に人間からエネルギーを得ているから人間みんなに認知されるとこの力がなくなる可能性があるの。だから、人前で変身したり、誰かに喋ったりTwitterで発信したり、インスタに写真投稿したりはしないで欲しいの」
Twitterもインスタもコスプレの写真に間違われてバズりそうだ。
「わかった。」
「じゃあこれで契約更新の完了ってことね!改めてよろしく!あんた名前なんだっけ?」
「岩瀬 あかね。」
「じゃああかね。文字通り死が二人を分かつまでよろしくね!」
小さい手は私の人差し指と握手する。
「で、どうやって魔法少女を探すの?」
「あなたもう魔法少女に変身できるわよ。はい。コンパクト。これを手の上に掲げて呪文を唱えるの」
「呪文?」
「人それぞれだからわかんない。掲げてみればわかるんじゃない?自然に出てくるみたいよ」
なんだそれ、すげー適当だな。
私は一呼吸すると、コンパクトを頭上高く掲げる。子供のころのアニメで見た呪文を口走る。私の体が光で包まれ、全身に解放感が走る。
「ん?つうか全裸になっただけじゃね。」
「そうみたいね。服着たら?」
「なんだそれ!部屋着返せよ!追いはぎ妖精が!」
「しらんがな!そんなんしらんがな!早く服着ろ変態が!」
「おめえの変な変身魔法で変身したんじゃねーか!服返せよ!」
「あーもうめんどくさいなーーー。変身もまともにできないってどういうことよ!」
その時、服が突然現れてどさどさっと漫画本で散らかった部屋に服が落ちた。ほっかほかのパンティがスゥエットからのぞいている。
「・・・どういうことなんだよ。シュール過ぎない?」
「あんたは変身すると脱衣するタイプの魔法少女みたいね。って初めて言ったわ!どんなタイプなのよ!」
「しらねーよ!戦いに行く前の問題じゃない!?」
「あーーー。ちょっとまって。あんた、変身の時変なこと口走ってなかった。」
「か、勝手に浮かんできたのよ。」
私は服を一枚ずつ着ながら答える。
「いや、あんな変なのあんただけだったわ。無言で掲げてみ」
「無言でって・・・なんかかっこ悪いじゃん」
「いや、全裸のほうが倫理的にまずいだろ。」
光る虫のくせに倫理とか使うな。私は促された通り無言でコンパクトを高く掲げる。
また体が光に包まれ、ひらひらが沢山ついたワンピースドレスに変身した。
「これよ。これ。やっと魔法少女誕生ね!」
「いままでのやり取りは一体なんだったのかしら・・・」
ドレスをひらひらさせてみる。子供のころ夢見た魔法少女そのものの姿で楽しくなる。なんとか良品で買った大きな姿見で改めて自分の姿を眺める。コスプレのようにも見えるし、派手な喪服のようにも見える。さっき自殺した人間なのにその顔は笑っていた。
「3人分の魔力ってどうつかう?」
「具体的な武器の形にできないかな?どう使うって言われてもよくわかんないし」
私はまだ鏡の前の私のとりこだった。
「剣とかに置き換えるってこと?」
「そうね。ビームサーベルとシールド、ビームライフルがいいわね」
「び、びーむ?びーむってなに?」
「私ガノタなのよ。やっぱり魔法でどうのこうのっていうより、ガキーンってつばぜり合いとかしたい感じなのよね。」
「よくわかんねえ奴だな!全裸にはなるし!びーむでガキーンって!」
「そんなのはいいから早く頂戴よ。」
「イメージしてみれば出るんじゃない?3人分の魔力で3個の武器を作るってことよね?」
私は例のロボット漫画のイメージを思いうかべる。その時ふと、瑞佳のことがよぎった。
「うわー!なんだそれ!バチバチって!すっげーそれがビームか!」
イメージ通りの物体はレーザー状の刃のついた長剣と、トリコロールカラーで着色された盾、そして、ビームが出ると思われる長尺の銃。
「全裸になったりしたけど、これでようやく魔法少女を倒す準備はできたってわけね。」
「ところで、魔法少女たちってどうやって探すの?」
「あなたの波動はデモンズと一緒だからね。おそらく変身した時点その波動が増幅されてるから、あなたのことはみんななんとなくは気づいていると思うわ。」
「つまりは勝手に向こうからくるってわけね。」
アンジェラは不敵に笑った。
「そうね。次にあなたが魔法少女に出会ったらそいつは間違いなく、あなたが排除すべき敵ってことよ」
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