第31話 駐在くん、女子高生とイチャイチャしちゃう


「そうなんです! それで、私はこの冬休み中はずーっとこの駐在所でハジメくんのお世話をするので、気にせずよろしくお願いしますね」

「そ……そうなんですね。了解しました。では、二週間という短い間ですが、よろしくお願いします」


 ケガをしたハジメが歩けるようになるまでの二週間、臨時で派遣されてきた加藤巡査は、女子高生が普通に駐在所に寝泊まりしていることに驚いた。

 だが、話を聞いて納得する。

 いかがわしい関係ではなく、きちんと本人も同意の上、親も公認の関係であると聞かされたからだ。

 それに、二週間とはいえ、寝食を共にすることになるのだから。


「あ、毎日のご飯は私が用意しますから、一緒に食べてくださいね」

「そうなんですか!? それはありがたいです。僕、料理が苦手で……」


 初めの内は、短い間とはいえこんな田舎で過ごすのは面倒だと思っていたが、菜乃花の料理があまりに美味しいため喜んでいた。

 村は平和だし、村人たちもいい人ばかり。

 仁平もハジメも加藤巡査に優しかった。

 だが、やはりちょっと居心地が悪い。


「あ、もう、ハジメくん、ケチャップついてるよ」

「え? どこに?」

「ほら、ここ……」


 オムライスを食べていたら、ハジメの口元についていたケチャップを、普通にペロリと菜乃花が舐めとった。


「ば、ばか! やめろよ!」

「えへへ! 照れなくてもいいじゃない。恋人なんだから♡」

「だ、だからって……加藤巡査が見てるだろ!」


 ということがあったり……


「ねーハジメくん、おはようのキスして?」

「な、何言ってるんだ……! 隣の部屋に加藤巡査がいるんだぞ!?」

「加藤巡査ならまだ寝てるから大丈夫♡ ね、キスしてよ」


 寝ていると思われて、扉一枚挟んだ向こう側でなんだがチュッチュと聞こえてきたりした。

 そのせいで、加藤巡査はやっぱり耐えきれなくなって、三日後には仁平宅で寝泊まりするようになる。


 そうして、なんだかんだで二週間経ち、ハジメが完全復帰。

 菜乃花も冬休みが終わって、学校が始まっていた。


「——それで、責任を取るのはわかったが……お前たち、本当にまだ一度もヤってないのか?」

「だから、ヤってませんって!」


 加藤巡査も帰ったことだし、改めて仁平はハジメに聞いてみたのだが、責任を取って婚約したのはいいものの、菜乃花が高校を卒業するまでは、清い関係でなければならないという条件が納得いかなかった。

 確かに、菜乃花はまだ十六歳だし、もし結婚前に妊娠なんてしてしまったら大変だろう。


「惚れてる女が目の前にいて、よく我慢できるな……俺が若いころなら、絶対に無理だ」

「それが婚約の条件ですから……あの儀式は十八歳まではどうしても続けないといけないらしくて」

「儀式か……俺にはよくわからないが、それであの夏子さんの気がすむなら仕方ないか」


 仁平もハジメも、そして菜乃花も、あの儀式に何の意味があるのかはさっぱりわかってはいない。

 だが、菜乃花が聖女のまま、儀式さえ続けてくれればあとは自由だということになったのだから、それに従うしかないだろう。


「そういえば、お前が落ちたあの穴なんだが————」

「あぁ、あそこにあった骸骨、どうなりました?」


 ハジメが落ちたのは、あの火事で燃えてしまった古民家の敷地内だった。

 燃えてしまったことでもともと空いていた穴があらわになり、ホワイトアウトで方向感覚を失ったハジメは、偶然そこへ足を踏み外したのだ。

 穴の近くにいくつかあった骸骨のことを、ハジメは仁平に話していた。

 いったい誰の骨なのかも不明だったし、あそこには地下に死体が埋まっているらしいと菜乃花が言っていたこともある。

 この骸骨のことなのかと、調べた方がいいと思ったからだ。


「——それが、骸骨なんて一つもなかったぞ?」

「……え?」


 しかし、仁平は村長の許可を得て現場を見に行ったが、骸骨なんてどこにもなかったという。

 骨もないし、祭壇がある部屋から菜乃花が蕎麦を食べていた部屋へ移動し、さらにその奥の仏像のようなものが置いてある入り組んだ道も通り、ハジメが落下した穴も確認した。

 そのどこにも骨なんて落ちていない。


「……お前一体、何を見たんだ?」

「そんな……俺は、ちゃんとこの目で……」


(じゃぁ……俺が見たものはなんだったんだ?)


 やはりこの村には、まだまだわからないことがたくさんあるようだ。



 * * *



 一方、もともと所属していた交番に戻った加藤巡査は、警察署から呼び出しがあり、署長室に来るように指示を受ける。

 何かまずいことでもしただろうかと、不安になりながら署長室へ入ると、そこには前任の署長が退職したため、昨日から新しく署長に昇格した男が一人、応接用のソファーににっこりと笑みを浮かべて座っていた。


「お、お呼びでしょうか?」

「まぁ、座りなさい。なに、怖がることはない、ちょっと君に聞きたいことがあるだけですよ」

「は、はい」


 加藤巡査は促されるまま向かい側に座ると、笑みを崩さないまま、男は言った。


「君、女人村に二週間いたそうだね」

「はい、無事に何事もなく終わって、今朝方、戻ってきたところです」

「どうだった?」

「え? えーと、そうですね……とてものどかな村で、村の人も優しい人ばかりで——……」

「そうじゃなくて」

「え?」

「あの子、どんな感じだった?」

「あの子——と言いますと?」

だよ。比目ハジメ巡査。あの子が負傷したから、君が行ったんだろう?」


 加藤巡査は、わけが分からずに何度もパチパチと瞬きをする。


(ハジたん?)


「えーと、比目巡査でしたら、怪我もだいぶよくなりまして特に問題はないかと……」

「だーかーらーぁ! そうじゃなくって! ハジたんに女ができたって、それも高校生だっていう話は、本当かって聞いてるんだよ」

「えっ!?」


 男はテーブルを強く叩いて、その音に驚いた加藤巡査がテーブルから視線を男の顔の方に向けると、あの浮かべていた笑顔が消えている。


(ど、どういうこと!?)


 加藤巡査は知らなかった。

 この男こそ、ハジメが女人村へ左遷する原因となった男であることを。

 だから、聞かれたまま、素直に全てを話してしまった。

 それが、この男にだけは絶対してはいけない話だなんて、知らずに————






 ——————————

 第三章はここまで!


 お楽しみいただけてますか??

 なんだか不安になってきてます……寒いからかな?


 次回、第四章 ハラスメント・バブル


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