第30話 駐在くん、責任を取る
「ハジメくん!!」
ハジメが警察署を出ると、菜乃花が待っていて、姿が見えた瞬間に駆け寄ってきて抱きつかれる。
入り口前に立っている警備担当者にジロジロみられたが、松葉杖をついている状態では拒否することもできずに、されるがままだ。
「ば、ばか……危ないだろ!」
「えへへ……ごめんごめん。嬉しくてつい……」
ハジメが救急車で運ばれた時、一緒に乗り込もうとした菜乃花は両親に引き止められてしまって、村に残っていたはずなのに、なぜここにいるのか……
状況がつかめずに、ハジメは首をかしげる。
「一体何が嬉しいんだ?」
「お母さんからね、条件付きだけど、これからもハジメくんと会っていいって、許可もらったの!」
菜乃花の話によると、実際には未遂なのだがハジメと菜乃花が地下で子作りしていた……というのが村中の噂になってしまったそうだ。
救急車で運ばれたせいで、村中の人がそういう事実があったと認識してしまっている。
村中にそう思われてしまっていては、もうハジメに責任を取らせろということに……
「一応、私が十八歳になって、高校を卒業するまでは、聖女としての務めは続けなきゃならないんだけど……お母さんがね、それさえ守ってくれたら、ハジメくんと一緒にいてもいいって。要するに、これで私とハジメくんは正式に婚約者になったの」
「そうか……って、ちょっと待て!! 婚約!?」
知らない間に話が進んでいて、ハジメは戸惑った。
「え、ハジメくん、やっぱり私のこと好きじゃないの? あんな……激しいキスしておいて————」
昨日自分がしたことを思い出して、ハジメはぼっと顔を真っ赤にする。
(は、激しいキス……っ!!? いや、そうだけど……しちゃったけど……!!)
「もしかして私の体じゃ、満足できなかった?」
「ま、満足も何も!! 最後までやってもいないだろうが!! そうじゃなくて————」
「じゃぁ、私とのキスは気持ちよくなかったっていうの?」
「そんなわけないだろ……めちゃくちゃ柔らかくて凄かった————……って、そうじゃなくて!! 一旦落ち着け! とりあえず、今ここでする話じゃない!! 一旦帰ろう!」
警察署の前でイチャイチャしているようにしか見えないこの二人を、通行人たちが白い目でみていることに気がついて、ハジメはくっついて離れない菜乃花をなんとか落ち着かせ、タイミングよく現れたタクシーに乗り込んだ。
* * *
駅へ向かうタクシーの中で、改めて話した二人。
「つまり、俺が責任を取って、菜乃花と結婚すると……そういう話になってるんだな?」
「うん。だって、私にあんなことしておいて……みんなに見られちゃったから、もう私、お嫁にいけないもん」
実際にはキスとちょっとだけ胸を触ったぐらいしかしていないのだが、まるで自分が傷物になったようなことを言う菜乃花。
まったく無関係のタクシーの運転手にも、きっと勘違いされているだろう。
「それは……そうだけど……でも————俺は結婚なんて……」
(確かに、誘惑に負けたのは事実だ。ずっと耐えてきたけど、もう限界だった。でも結婚となると……)
「やっぱりハジメくんは、私のことが好きじゃないの? ハジメくんは、好きでもない女の子と、あんなことができるような人なの?」
戸惑っているハジメに、菜乃花は泣きそうな声でそう言った。
瞳に涙を浮かべて、悲しそうな表情でハジメの手を両手で握る。
(くそ……可愛い。なんて可愛いんだ。できることなら、すぐにでも結婚したい……!)
「そんなわけないだろ……!! 俺はそんな最低な人間じゃない」
(男なら、責任を取るべきだ!)
あの時、抑えていたものが弾けてしまったせいか、菜乃花が《万が一赤ちゃんができちゃってもハジメくんが嫌なら、一人で育てるから……》なんて言って、責任なんて取らなくていい的なことを言われていたのはすっかり忘れている。
そして、自分の気持ちを認めざるを得なかった。
いつの間にか……いや、もしかしたら、初めて好きだと告白されたあの日から、実はずっとハジメも菜乃花のことが好きだったのかもしれない。
顔がタイプだから……と、菜乃花が言っていたが、それならハジメも同じく菜乃花の顔はタイプだし、ちょっと不思議な子だけど、一途に向けられる想いまんざらでもなかったのだ。
「……わかった。認める。俺は、菜乃花が好きだ。責任はちゃんと取る。もう同意の上だし、これが原因で世間から非難されることもないだろう…………ただ————」
「ただ?」
ハジメが菜乃花と付き合えない理由は、二つ。
一つは警察官が未成年と関係を持つなんて、世間的にどうかというもの。
これはもう、ここまで公認のものとなっては、クリアしたも同然だ。
だが、一番の問題は二つ目の方。
母親の——美里の女子高生嫌いだ。
「高校を卒業するまでは、親に紹介できない。バレたら、絶対に引き離される……それか、もしかしたら最悪、俺は殺される」
「え……? なんで?」
ハジメは菜乃花に、自分の両親の離婚理由をすべて話した。
つつい興味深い会話に聞き耳を立てていたタクシーの運転手は、ハジメの話に同情し、心の中で泣いていたが、そんなこと、ハジメが知る由も無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます