第22話 駐在くん、見送る


 けたたましく鳴り響くサイレンの音。


「えっ! また火事!?」

「一体なんだっていうんだい?」


 村人は再び鳴り響いたサイレンの音に、外へ飛び出した。

 煙が上がっているのは、最初に被害にあった村長とは正反対の今は誰も住んでいない空き家。

 この時、容疑者として浮上していた雷太は隣町の家にいる為、犯行は不可能で、すぐに容疑は晴れる。

 そして、犯人はたまたまパトロールをしていて犯行の瞬間に居合わせた仁平がそのまま逮捕した。

 火はすぐに鎮火したが、村人たちには衝撃が走る。

 犯人は村の住人ではなく、なんどかこの村に営業できていた火災保険会社の職員の女だったのだ。



「いやー……まったく驚いた。まさかあの人がねぇ」

「そんなことをするようには見えなかったのに……私、知らずにあの人と契約しちゃったよ!!」


 伊丹たちが取り調べると、犯人の女は全て自供した。

 村長の家が建て替えを行なっているのを知り、何度か営業にきたのだが断られてしまったらしい。

 契約を絶対に取ってくるようにと上司に圧力をかけられていたし、ノルマが達成できそうもなくて精神的に追い詰められていた女は、村長を逆恨みして思わず日をつけた。

 そうしたら、その火事を受けてすぐに村の住人から火災保険の契約が何件も取れたのだ。


 村長の家が火事になったことにより、この田舎の村でもきちんと入っておいた方がいいという村民が増えたのだと気づいた女は二度目の犯行に及んだ……というところで、仁平に目撃されて逮捕。

 女人村で起きた連続放火事件は、犯人逮捕により一気に解決し、伊丹と上杉はこの日の夜に所轄へ犯人を連れて戻ることになった。



「なんだか、慌ただしいクリスマスだったね……」

「あぁ、そうだな」


 ハジメと菜乃花が駐在所の前で連行されていく様子を並んで見ている。

 消防車のサイレンが聞こえた時は、放火がこれからも続くかもしれないと不安になったが、これで一安心だ。

 女人村に平和が戻る。


 手錠をかけられたまま、車に乗せられた女を後部座席に押し込むと、伊丹は勢いよくドアを閉めて二人の方へ向き直った。


「それじゃぁ、これで私たちは所轄に戻るけど……駐在くん」

「は、はい!」

「また、会いに来るからね————!! 泣くことはないのよ?」

「いや、泣いてません……」


(泣いてるのはあんただろ……)


 目に涙を浮かべ、恋人との別れを惜しむような切ない表情になる伊丹。

 菜乃花はにっこりと笑いながら、手を振る。


「さよなら、刑事さん! もう二度と来ないでくださいね!」

「チッ……なによ! 小娘が!! いい? 今回は犯人を逮捕できたからいいけど、あなたが何か隠していたことはお見通しなんだからね!! もし次に何かこの村で事件が起きたら、真っ先に取り調べてやるんだからっ!!」

「大丈夫ですぅ! 何も起きませんから」

「ふんっ」


 バチバチと睨みあう菜乃花と伊丹。

 耐えきれず運転席の上杉が窓を開けて叫ぶ。


「いい加減にしてください! 伊丹さん、行きますよ!」

「わかってるわよ!! それじゃぁ、また」


 こうして、慌ただしいクリスマスは幕を下ろした。



 * * *



「ハジメくん、明日の夜こそクリスマスパーティーね!!」

「パーティー?」


 パトカーで菜乃花を自宅へ送り届けている途中、助手席の菜乃花がそんなことを言い出した。


「明日はもうクリスマスじゃないだろ?」

「でも! ハジメくんがこの村に来て初めてのクリスマスだし……それに、食材もちゃんと用意してたんだからご馳走を食べないと!」

「そりゃ……ご馳走は食べたいけど……」

「もちろん、デザートには私を食べてもらって————」

「おい、こら! またそんなこと言って! いい加減にしろ」


(まったく、そういう発想は雷太と大差ないんじゃないのか?)


「もう! とってもセクシーなサンタコスプレ衣装も買ってあるのに」


 そう言ってスマホをいじると、通販で購入したというスケスケサンタのネグリジェの画像を見せてくる菜乃花。


「な……なんだこれ!! お前な、高校生がこんな破廉恥なもの買うんじゃない!!」


(そんなの着たら全部見えちゃうだろうが……————いや、何を考えている俺、運転に集中しろ)


「えー……ハジメくんなら喜ぶと思ったのに」



 そんな平和な会話をしながら、菜乃花の家の前に到着する。

 菜乃花はパトカーから降りると、可愛く手を降って家の中へ入って行った。

 ハジメは菜乃花を見送り一息つくと、立ち入り禁止のテープが貼られている火災現場の方に視線を移す。


(急に犯人が捕まって、詳しいことは聞きそびれたけど……)



《それにほら、燃えたのって昔からあるあの家でしょ? アレがあるって噂の……》

《大丈夫なのかしら? 悪いことが起きなければいいけど……》


 パトロール中に村民の会話から聞こえた


《……あの家、地下に死体があるらしいの》


 菜乃花が言ったが同じものを指しているように思えてならなかった。



「地下に、死体————か」



 焼けて崩れた、昭和初期からあるという大きな古民家。

 その下に、本当に死体が埋まっているというのなら、一体、誰のものなのか……

 それにそんな噂が村民にも広がっているのは何故なのか……


 この村には、まだハジメの知らないことがたくさんあるようだ————






 ————————————

 第二章はここまで!

 第二章も最後までお読みいただきありがとうございました!


 完結まで突っ走りますので、引き続き応援よろしくお願いします!(*・ω・)ノ

 感想、星レビューいつでも待ってます!!



 次回、第三章 そうなんです




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