第21話 駐在くん、挟まれる


「……一体、俺がいない間に何が……?」


 翌日、結局クリスマスディナーには間に合わなかった上杉が昼過ぎに駐在所を訪れると、昨日とは違う光景があった。

 彼氏が欲しいという割には、結構ガサツな上さすが刑事と言わんばかりの迫力がある伊丹が駐在所警官のハジメにべったりくっついている。

 そして、昨日からすでにべったりくっついていた女子高生も、より一層くっついている。

 三人の距離がバカみたいに近い。


「何が……って、そんな野暮なこと聞くんじゃないわよ! 恥ずかしいでしょ!」

「いや、誤解されるようなこと言わないでくださいよ!! 伊丹刑事!!」


 そんな二人に挟まれながら、ひどく疲れた表情でハジメがツッコミを入れる……


「比目くん、伊丹さんに一体なにをしたんだ? もしかして、見た目に反して君、意外と女たらしなの?」

「そんなわけないでしょう!? どうしてそうなるんですか!!?」


 勘違いさせてしまっているとはいえ、両手に花状態のハジメ。

 菜乃花が超絶可愛い女子高生であることに間違いはないし、伊丹もこうして恋する乙女のような表情さえしていれば普通に美人だ。

 伊丹の刑事としての怖さを知らない一般人からしたら、綺麗なお姉さんと女子高生に挟まれているなんて、羨ましい限りだろう。


「……それより、上杉、私を置いて勝手に帰ったわね! 許さないわよ!!」

「それに関しては、すみません。お叱りは署に戻ってから聞きますので……えーと、まずは新たな情報が一つありまして」

「新たな情報?」


 上杉の言葉に、パッと元の女刑事の顔つきに戻る伊丹。

 上杉はタブレット端末を伊丹の方に向けた。


「この村の住人でないとしたら、外部の人間が犯人である可能性が高い……ということで、周辺の防犯カメラを探してみたんですが」

「こんな田舎に、防犯カメラなんてあるの?」

「数は少ないですが、駅やこの駐在所、それから公民館なんかには一応設置されてます。不審人物が一人浮上しまして……」


 画面には、ハジメが映っていた。


「え、俺?」

「いや、こっちの比目じゃなくてその後ろ……この黒いダウンコートの男」


 上杉が指差したのは、駅から出たハジメの後をつける不審な男だった。

 ものすごい形相で、ハジメを睨みつけているように見える。


「事件の前日にこの村へ来た人物はこの男だけなんだ。この後、この男は駅の防犯カメラに映っていないし、もしかしたらこの村に潜んでいるんじゃないかと————」


 ハジメと菜乃花は顔を見合わせる。


「これ、ライターじゃん」


 上杉が指差したのは、ライターこと火野雷太だった。




 * * *



『おおおお俺がそんなことするわけないだろ!!』


 菜乃花が雷太に連絡すると、雷太は隣町の自宅にいた。

 雷太の話によると、雷太はあの日事情聴取を受けた後、夜の最終電車に乗って自宅へ帰るはずだったのだが、止まらない妄想であたまがいっぱいになってしまい、乗り遅れたらしい。

 利用客が少ない女人村の駅は、もともと電車の来る回数が少ないため、仕方なく祖父の家に泊まったそうだ。


 その為、確かに火事の時雷太はこの村にいたことになるが、防犯カメラに映っていないのは翌日の朝、隣町に用事があった向かいの家に住んでいる叔母さんに送ってもらったから。


『なんだよぉぉ!! 菜乃花からビデオ通話なんて珍しいと思ったら!!!! なんで犯人扱いされてるんだよ!!』

「仕方がないじゃない。女刑事さんがそうしろって言ってきたんだから」


 顔を見れば刑事の勘で嘘をついているかいないかわかるというので、ビデオ通話にしたが……こちらからは画面いっぱいに映る雷太のドアップは見えるものの、雷太からは後ろにいる刑事二人は見切れていて映っていなかった。


『女刑事!? え、刑事さん女なのか!? 女刑事!? ってことは、俺は女刑事さんに手錠でベッドに繋がれて動けなくなるのか!?』

「……なにこの子、頭大丈夫?」


 伊丹が眉間にシワを寄せる。


(あぁ、なんかまた変な妄想始まってる……)


『あれだろ!? 女刑事って、犯人が自分がやりました!って言うまで拷問するんだろ!? 俺の敏感なところをハイヒールで踏みつけたり』

「いや、え、なに言ってるのこの子」


(これじゃぁ、放火じゃなくて別の罪状で捕まりそうだ……)



 とんでもない下ネタが次々と雷太の口から飛び出して、伊丹と上杉は目をパチパチしていた。


「……最近の子って、みんなこんなこと考えてるの?」

「いや、流石にそれはないでしょう。この子が特殊なだけですよ」


 雷太の止まらない妄想に戸惑っている刑事二人。

 菜乃花は呆れながら、もう直接話してくださいと、伊丹に自分のスマホを渡した。



「ハジメくん……あの燃えてしまった家はいつまで立ち入り禁止なの?」

「え……?」


 刑事二人が雷太との会話に戸惑っている間に、菜乃花はこそっとハジメに耳打ちする。


「ライターが放火なんてするはずないし、あそこには私に火事のことを教えてくれた妖怪さん以外にも……色々あって。それが何か関係してるんじゃないかなって……」

「色々って、例えば?」

「……あの家、地下に死体があるらしいの」

「し、死体!?」


 菜乃花の物騒な発言に、思わず声が大きくなるハジメ。


「しーっ! 聞こえちゃうでしょ!」

「あ、すまん……つい……」

「とにかく、直接私の目で確認した方がいいことが————」


 菜乃花がそう言いかけた時、また女人村に消防車のサイレンが鳴り響いた。


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