第20話 駐在くん、嘘をつく
伊丹は菜乃花が何か隠していると疑い、もう少しこの村に滞在すると言い張って聞かなかった。
だが、上杉は伊丹がトイレに行った隙に駐在所から出て行く。
「上杉さんいいんですか? 相棒置いて行って……」
「あの人の気まぐれに付き合ってたら、彼女に会えなくなる! 今日はクリスマスイブだぞ!? 俺は帰る!! じゃっ!!」
ものすごいスピードで車に飛び乗ると、まるで逃走犯のように村から脱出していく。
「あの刑事さん、彼女いるんだね。ハジメくんとは違って、刑事さんってモテるのかな?」
「あぁ、そうみたいだな……って、刑事がどうとか関係ないだろ」
たった一ヶ月ではあったが、研修先で見た上杉はあんな人だったろうかと思うハジメ。
上杉はあの当時まだ交番勤務で、刑事になれることを喜んでいたのだが、現実を知って仕事より彼女が大事になっていることを、ハジメは知らない。
「ねぇ、駐在くん……」
「はい?」
ハジメと菜乃花が逃走した車両が遠く離れていくのを眺めていると、いつの間にか伊丹が後ろに立っていた。
なぜか、片手に洗面台に置いてあったピンクのコップを持ってる。
「これは一体どういうことかしら? 君、独身よね?」
「あ……私のコップ!」
「私の!? ……どういうこと!? 君たちまさか同棲してるの!? 駐在所で!?」
(げっ……やばっ!!)
伊丹はトイレで用を済ませたあと手を洗おうと洗面所に行ったのだ。
そうしたら、なんともまぁ……明らかに二人で生活しているとしか思えないものが置いてあって驚愕した。
警察官が恋愛をするなとは、伊丹だって思ってはいない。
だが、ここは駐在所で、国民の税金から成り立っている施設だ。
そんなところで、女子高生とよろしくやっているのかと思うと、信じられなかった。
「なんてことをしてるのよ!! 駐在所に女子高生連れ込んで……警察官としての自覚はないの!?」
「ち、違うんです!! 何度も言ってますけど、俺は女子高生に手は出してません!! 俺が出されてるんです!!」
(やばい……やばい……どうしよう!?)
もちろんハジメは、自分から女子高生を連れ込んではいない。
決して、警察官としての自覚のない行動をとってはいない。
だが、今のこの状況は世間一般からみたら、明らかにそういう風に思われるに違いない。
このままでは、ハジメは女子高生に手を出した淫行警官になってしまう。
(どうしよう……えーと……えーと————)
どうすれば信じてもらえるのか、必死に考えたハジメはパニックになりながら名案を思いついた。
「俺は、年上が好きなんです!!!」
「……年上?」
「そうです!! 女子高生なんて興味ありません!! 断じて興味ありません!! 俺は、もっと年上の……色々なことを知っていて、頼れる……えーと、十歳ぐらい年上の人が好きなんです!! なので、女子高生には興味ありませんから!!!」
女子高生には興味がないことをわかってもらおうと、年上好きを大げさにアピールするハジメ。
菜乃花は、ハジメの言っていることが嘘だとわかっているため、笑いをこらえるのに必死だ。
伊丹からは見えないようにさっと後ろを向いた。
(これで……きっと伊丹刑事もわかってくれるはずだ。俺が女子高生に手を出すはずがないと……!!)
ハジメは嘘だと疑われないようにまっすぐに伊丹の目を見る。
すると、急に今まで怒っていた伊丹の顔がポッと赤くなり————
「————……そ、そんな見つめられても……私にも好みってものが」
「……え?」
強くて怖い女刑事という印象だったのに、急に乙女のように両手で頬を抑え出した。
「確かに、理想そのものかもしれないけど……こんな年上の、私みたいなのが好きだなんて……急に言われても————ドキドキしちゃうじゃない」
「…………」
「…………」
ハジメも菜乃花も、伊丹の発言に目が点になった。
「ち……違う!! そういうことじゃ……!!」
「まさかこんな年下の若い子に告白されるなんて……恥ずかしいわ」
(違う違う! そうじゃない!!)
伊丹は自分が告白されたと勘違いして、先ほどまでの鋭い眼光の女刑事は一体どこへいったのか、照れてもじもじしている。
「…………ハジメくん、どうするんですか? 完全に勘違いしてますよ、この女刑事さん」
「ど……どうしようか」
* * *
(まじで、どうしよう……)
右を向けば菜乃花、左を向けば伊丹の寝顔がある。
超絶可愛いけど幽霊が見える女子高生と、睨まれたら怖いけれど実は乙女な女刑事と川の字で寝るなんて、誰が想像しただろうか……
もちろん、布団は別々なのだが二人ともハジメの方を向いているためか、距離が近い。
(眠れない……なんて日だ)
こんなクリスマスは初めてだった。
昨日は火事のせいで寝不足になっていた菜乃花がスヤスヤと眠っているのがあまりにも可愛い。
菜乃花が駐在所に泊まるのは今日が初めてだ。
(いや、待て……むしろこの方が良かったのかも……————)
あとで知ったのだが、今夜菜乃花はクリスマスだし冬休みが始まるからと最初から泊まる気満々だったのだ。
そう考えると、ありとあらゆる手段でハジメを誘惑しにかかったに違いない。
もし二人きりだったら、誘惑に負けて、本当に淫行警官になるところだった。
このまま手を伸ばして、菜乃花の可愛い頬をつつきたい衝動に駆られるハジメ。
そこへ寝相の悪い伊丹が寝返りを打ち、ハジメの尻に蹴りが入る。
「いっ……!?」
(な、なにするんだ! 寝相悪いなこの人!!)
腹が立って伊丹の方を見ると————
掛布団から下半身がはみ出し、鍛え抜かれた立派なプリッとしたお尻が露わになっていて、ドキッとする。
(おい、なんでこの人、裸で寝てるんだよ!!!)
伊丹は寝るときは冬でも裸だ。
(勘弁してくれよ……!!)
結局、この日ハジメは一睡もできなかった。
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