第19話 駐在くん、詰め寄られる
(間違ってる! なんか間違ってる!!)
「だから、村長から女子高生がお気に入りだって聞いたわ! いくらこんなど田舎の駐在所だからって、女子高生とそういう関係になってたりしてないわよね? 君は警察官だって自覚ちゃんと持ってる?」
「いや、あの……ちょっと待ってください、何かおかしいです。女子高生がお気に入りって、なんのことです??」
「だ・か・ら! 君が女子高生を好きなんでしょ? 女子高生に手を出したんでしょ?」
「違います!!! 逆です!! 俺が女子高生に好かれていて、手を出されそうなんです!!」
日本語とはややこしいもので、村長は菜乃花がハジメを気に入っているということを伝えたはずなのに、伊丹には逆に伝わってしまっていたようだ。
「女子高生が……君を?」
伊丹はつま先から頭までハジメを観察した。
するどい刑事の眼光で。
しかし、納得がいかないようでうーんと、唸る。
「女子高生が好意を抱くようなイケメンには思えないんだけど……」
「なっ……!!」
(それに関しては何も言えない……間違ってない)
「女子高生に好かれるなんて、若くてちょっとでもイケメンならわかるけど……あなた別に……————普通よね?」
「そ、そうです……けど、事実です」
確かに伊丹の言う通り、ハジメは特段イケメンというわけではない。
ブサイクというわけでもないが……
伊丹はこの男のどこがお気に入りなんだろうと、やはり納得できなくて今度はハジメのまわりをぐるりと周り、まるで3Dスキャンでもするかのように見始めた。
「まぁ、真面目そうには見えるけど……本当に女子高生に手を出したわけじゃないのね?」
「だから、そう言っているじゃないですか」
「ふーん……」
じーっと顔を近づけて、疑いの目を向ける伊丹。
ハジメは誓って悪いことはしていない。
だが菜乃花に手を出していないのだから、堂々としていればいいものをその眼光が鋭すぎて冷や汗をかいてしまう。
これがいくつもの刑事事件で犯人を追い詰め、逮捕してきた実績のある女刑事のプレッシャーである。
(怖い……なんという緊張感)
無意識に後ずさっていて、ハジメの背中が入り口のガラスの引き戸にぶつかりそうだった。
————ガラッッ
「ちょっと!! 私のハジメくんに何するの!!!」
そこへ菜乃花がやってきて、勢いよくドアを開けハジメの体はバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
すかさず菜乃花は腕を回して、ハジメをぎゅーっと抱きしめるとハジメの脇の下から顔を出して伊丹を睨みつけた。
「ハジメくんは私のなの!! 近づかないで!! オバさん!!」
ぷくーっと頬を膨らませて、伊丹にそう言った。
「お……オバ……オバさん!?」
目を見開きながら、伊丹はショックを受けて固まる。
まだ三十代。
それも、心はピチピチの二十歳の伊丹。
上杉は次に何が起こるかわかって、耳を塞いだ。
「だ……誰がオバさんよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
それはそれは大きな声が、駐在所に響き渡った。
* * *
怒り狂う伊丹をなんとかなだめ終わった頃には、もうすっかり外は暗くなっていた。
上杉は早く帰りたいと内心思いながら、改めて菜乃花に出火当時のことを確認する。
「えーと、それで君が通報したのは間違いないんだね?」
「そうです」
菜乃花はぎゅっとハジメの手を握ったまま、上杉の質問に答えていく。
何度ハジメが手を離せと言っても菜乃花は聞き入れてくれなかった。
「いつ頃、どんな風に火事に気がついたのかな? 火事になる前に何か物音を聞いたり、不審な人物を見かけたりとかは?」
「あー、それは……」
そう聞かれて、一瞬、菜乃花の手を握る力が強まる。
「眠っていたら、なんとなく目が覚めて…………それで、外を見たんです。そしたら、燃えているのが見えて」
(え……)
てっきり、上杉にもハジメに話したように妖怪の話をするものだと思っていたハジメは驚いた。
菜乃花はまるで幽霊も妖怪も見えない、普通の女子高生のように火事のことを語ったのだ。
嘘をついている。
妖怪の話が信じてはもらえないことを、ちゃんとわかっているようだった。
「どのあたり?」
「えーと、ここです」
燃える前の家の図面を見せられて、菜乃花は出火原因となった物置小屋を指差した。
菜乃花の証言と、現場検証で特定した出火場所は一致し、上杉はこれで今日はもう帰れるだろうと安心する。
だが、それを見ていた伊丹が口を出した。
「あなたの部屋から、物置小屋が燃えているのが見えるの?」
「え……?」
菜乃花の部屋の窓は、物置小屋が見える方角にはついていない。
伊丹はそこに気がついた。
「あ、その……部屋からじゃなくて、トイレに行こうと思って廊下を歩いている時に見たんで————」
また菜乃花の手に少し力が入る。
伊丹は菜乃花をじっと見てフッと笑った。
「もう少しこの村にいた方が良さそうね。ジンさん……」
「ん? なんだい? 伊丹刑事」
「この村、旅館とかホテルとかある?」
「な、なんですか、どうするつもりですか伊丹さん!!?」
嫌な予感がして、上杉は狼狽える。
今から帰れば、ギリギリ彼女とのクリスマスディナーをキャンセルせずに済みそうなのに、これは帰れないパターンだと察した。
「なら仕方がないわね。駐在所に泊まるしかないわ」
(えっ!?)
「問題ないでしょ? 駐在所は警官が寝泊まりするために居住スペースがあるんだから」
伊丹はそう言って、奥の居住スペースを指差した。
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