第15話 駐在くん、想像する
どうやら火野雷太は、かなり想像力……というか、妄想力が豊かなようだった。
雷太の事情聴取をしていたところで、村人が親戚から大量にもらったからとアワビをおすそ分けしに来たのだが、それを見て真っ赤な顔で……
「アワビだなんて……そんな————!!」
と、言って鼻息を荒くしたり……
仁平の机の上にあったハンドマイクのような形の肩たたき用のマッサージ機を発見して……
「こ、こんな堂々と!! 大人のおもちゃを職場の机の上に!?」
と言い始める始末。
「いや、それただの肩たたき用のマッサージ機だから。お前、大丈夫か?」
「マッサージ……マッサージ!? なんて、破廉恥な!! この変態警官! まさか、これで捕まえた女スパイを拷問するつもりか!!?」
「なんでそうなる!? お前のその想像力の方がよっぽど破廉恥だ!! 女スパイってなんだ!? こんなど田舎に女スパイなんているはずないだろう!!?」
雷太の妄想にツッコミを入れるハジメ。
それを見て、仁平は腹を抱えて笑った。
「はっはっは! いやー……昔から想像力だけは豊かだと思っていたが……雷太、お前、お笑い番組にでも出たらどうだ?」
「お笑いって、そんな! 俺はパンスト相撲なんてしたくねーよ!!」
もはや、何を見てもそういう方向に妄想しだすんじゃないかと思うくらいだ。
多感な時期とはいえ、全部そっち方向に持っていく雷太にハジメは複雑な心境になる。
(色々めんどくさいな……こいつ。きっと菜乃花のこともその妄想の対象
に————いや、考えるのやめよう。幼馴染だって、言ってたし——……)
幼馴染という優越感から、他の男子にアドバイスをしていた雷太が菜乃花をどう思っているのか、一瞬頭をよぎった想像を、ハジメは気づかなかったことにした。
* * *
「ライターが?」
「ら、ライター?」
学校から帰って来た菜乃花は、ハジメから雷太の話を聞いてそう言った。
「雷太のことよ。みんな、ライターって呼んでるの。あいつ、ちょっとのことで大げさに妄想膨らまして、大変なことになるから……あまり刺激しないようにするのが一番なの。あいつに火がついたら、ボヤ騒ぎじゃすまないよ……」
過去に何があったのか、菜乃花は呆れたようにため息をつきながら、晩御飯を作ろうと冷蔵庫をあけると、アワビを見つけてニヤリと笑った。
「ハジメくん、アワビがある……どうしたのこれ」
「ああ、おすそ分けでもらったんだ……その時、あの雷太もいて、変な妄想ばっかりして……大変だったよ」
「ふーん、それじゃぁ、アワビにキュウリを合わせようかしらね」
(アワビとキュウリ? ……それって————)
「な、何言ってるんだ! 菜乃花、お前までそんな変な想像を——!!」
「ハジメくんこそ、何言ってるの? 私はアワビとキュウリを使った料理を作ろうとしているだけよ? 今晩のおかずに」
「な……っ!!」
「変な想像したのは、ハジメくんの方じゃない?」
また菜乃花にからかわれて、ハジメは顔を耳まで真っ赤にする。
(しまった!! 俺は一体なにを……——)
「ふふふ……冗談よ! ハジメくんったら、本当に可愛いんだから♡」
菜乃花は右手にアワビ、左手にキュウリを持ってニコニコといたずらに笑っている。
今日一日、そんな妄想話ばかり聞かされていたせいか、ハジメの想像力にまで影響を及ぼしていた。
(ライター、なんて恐ろしい男だ)
そして、この日の夜、ハジメは夢でうなされることになる。
右手にアワビ、左手にマッサージ機を持った菜乃花が雷太の持っているキュウリにかぶりつき、笑いながらこちらを見ているという……謎の夢だった。
それも、菜乃花と雷太が制服なのはわかるのだが、なぜか夢の中のハジメも学生の頃着ていたブレザーの制服を着ている。
これだけでも、かなり意味不明なのだが、そのあと雷太がライターで火をつけると、菜乃花の来ていたセーラー服が消えて、あの赤い下着姿に……
「ほら、本当にこのアワビと似ているのか、確かめて見たいんでしょ? いいわよ、駐在変態ハジメくん」
菜乃花がそう言って、自分のショーツに手をかけたところで————
————プルルルルルルルルル
駐在所の電話が激しく鳴り響いた。
「はっ……!」
————プルルルルルルルルル
電話の音に目を覚ましたハジメは、急いで受話器をとる。
時刻は午前四時、まさかこんな時間に、この平和な女人村で事件が起こるなんて誰が想像しただろう。
「はい、女人村駐在所です————」
(びっくりした……なんだったんだ、今の夢)
「————え? 火事? あの、火事ならまずは消防に————え? 村長の家が?」
村長の家が燃えているという通報だった————
(村長の家って…………菜乃花————菜乃花は無事か!?)
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