第11話 駐在くん、女子高生とデートする


「ハジメくん、どれがいいかな?」


 左手に水色、右手にピンクのブラジャーを持って、菜乃花は入り口前に立っていたハジメに近寄ってきた。


「ど、どっちでもいいから!! 早く決めろ!」


 ここは、隣町のショッピングセンター……の、女性用下着専門店である。

 クリスマスの煌びやかな装飾がされ、マネキンもクリスマス仕様で小さなサンタハットをかぶっている、この下着売り場の入り口の前で、ハジメは棒立ちしていた。

 汚してしまった菜乃花の服を弁償するため来たのだが、せっかくならついでに色々デパートの中を見て回りたいということで、仕方がなくここに立っている。

 女性客ばかりがいる店内に足を踏み入れるなんて、ハジメにはできなかったのだ。


「もう、ハジメくん! そんなところに突っ立てる方が怪しいよ……! デートなんだから、一緒に中入って選んでよ!」

「デートって……俺は、服のお詫びに買い物に付き合ってるだけで————」

「つべこべ言わない! ほら、こっち、こっち!」

「あ、おい! 引っ張るなよ!」


 結局、ハジメは菜乃花にグイグイ腕を引っ張られ、四方八方下着だらけの店内に入ってしまった。


(こ、ここはダメだろ! なんだこれは……!)


「いらっしゃいませー」

「どうぞごゆっくりご覧くださーい」


 可愛らしいアルパカ柄からセクシーな黒いレースの下着。

 布の面積が明らかに小さすぎるどこを隠せるのかかわからないショーツや菜乃花が着けていたような大きなサイズのものだったり……

 とにかく、自分の居場所は絶対にここではないと思うハジメ。


(いづらい……めちゃくちゃいづらい……助けてくれ……)


 店員に声をかけられて、緊張してビクビクしてしまう。

 他の女性客に不審者だと思われ、ジロジロ見られているのではないかと思ったが、意外にも誰も気にしてはいないようだった。


「あ! これも可愛い。どう? どう?」

「どうって……俺に聞くなよ」


(何が違うかさっぱりわからん。何をどうみたらいいのか、視線をどこにやったらいいのか全然わからない————こんなことなら、一度下着泥棒の現場検証にでも立ち会えばよかったか?)


 女人村では絶対に起きない事件だ。

 おそらく今後もハジメが下着泥棒に遭遇することはないだろう。


「もう、ハジメくんが選んでよ。どれが一番興奮する?」

「そういう言い方やめろ! 俺は変態じゃないって言ってるだろ」

「いいのよ、ハジメくん。恥ずかしがることはないわ。私はハジメくんを愛してるから、どんな趣味を持っていようと、全部受け入れる覚悟はできてるのよ?」

「……いい加減にしろ! さっさと決めてくれ」


(もうやだ……女子高生怖い……なんでこんなに可愛いんだ)


 ハジメは涙目になっていた。

 この女子高生の発言にはドキドキしっぱなしである。

 もし菜乃花が女子高生じゃなかったら、今すぐにでも抱きしめていたかもしれない。

 女子高生であるということをなしにすれば、可愛い女の子に好きだの愛してるだの毎日言われ続けているのだ……嬉しくないはずがない。

 ちょっと変わっている子ではあるけど……


(あぁ、なんで俺……警察官になっちゃったんだろう————……って、何を考えてるんだバカ!! しっかりしろ!)



 * * *


 結局、ピンクでも水色でもなく、真っ白なブラジャーを買った菜乃花のレジが終わるのを待って店を出た。

 母親と買い物に来ていた時に荷物係だった習慣で、荷物は必ずハジメが率先して何も言わずに持ってくれるため、菜乃花の両手は自由だ。

 ショッピングセンターといっても、田舎なのでそこまで人は多くないのだが、はぐれないようにと菜乃花はハジメの空いている方の手をぎゅっと握ってくる。


「こうしてると、新婚さんに見えるかな?」

「あのなぁ……なんでそうなるんだよ。手ぇ離せ」

「いやだ! 今日はハジメくんと初めてのデートだもん」

「まだ言ってるのか……はぁ」


 さすがにハジメも諦めた。

 確かに、今日が休日ということもあってか、同じように手を繋いで歩いているカップルや、寄り添って歩いている夫婦もいる。

 みんな自分たちの世界に入り込んでいるし、制服を着ていないハジメを警察官だと思う人はいないだろう。

 菜乃花とは年齢差で言えば、五歳差。

 ハジメは老け顔でもないし、どちらかと言えば童顔だ。

 同じぐらいの年齢のカップルがデートしているように思われているかもしれない。


(堂々としてない方が、逆に怪しまれるような気がしてきた……)


 すれ違った明らかに年齢差のある別のカップルを横目に、ハジメはそう思った。


「ハジメくん、お腹すいた。何か食べよう」

「あぁ、そうだな……」


 コンビニもスーパーもない村で生活しているせいで、ジャンクフードに飢えていたハジメは、フードコートでハンバガーセットを注文した。

 空いている席に座って、菜乃花はハジメがくるのを待っている。


「お待たせいたしましたー! 照り焼きバーガーセットお二つです」


 久しぶりのジャンクフードの香りに、余計にお腹が空く。

 村へ来る前は、週に何度も食べていた。


(ポテト久しぶりだなー……Lにすればよかったか? まぁ、足りなかったらまた頼めばいいか————)


 受け取ったトレーを持ちながら、菜乃花がいる席を探すハジメ。


「ん……?」


 菜乃花の姿はすぐに見つかったのだが、自分が座るはずの椅子に知らない男が座っていて驚いた。


(……誰だ?)



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