第10話 駐在くん、ついにやらかす
(だ、誰のだ!? 誰のだ!?)
初めて見た真っ赤なブラジャー。
(母さんか……? いや、待て待て、母さんこんなにでかくないだろう!!)
確かに美里は赤が好きだが、初めの記憶では実家に干してあったものと明らかにサイズが合わない。
(もしかして、昨日のEカップのお姉さん? いやいや、そんな、まさか————)
恐る恐るブラジャーをつまみあげ、タグを確認したら、Fと書かれている。
「えふ……えふか……っ!」
————ダァァァァンッ
驚きすぎて、尻もちをついたハジメ。
思わず上に投げてしまったブラジャーは宙を舞い、天井にぶつかってはらりとハジメの頭の上へ。
「はっ……えっ……わわわっ!?」
————ガチャリ
(やばい、やばいやばい!! 出てくる!! 中にいる人出てくる!!!)
物音に気がついて、先にシャワーを浴びていたブラジャーの主がドアを開けて顔を出そうとしている。
こんな姿を見られたら、明らかに変態だ。
ブラジャーを頭からかぶっているのだから。
しかも、自分はパンツ一枚のままだ。
(やばいやばいやばい!!)
「————ハジメくん、何してるの?」
「……な……菜乃花……?」
* * *
とりあえず、部屋の隅に追いやられていたTシャツとスウェットに着替え、ハジメは正座した。
まるで武士のように。
部屋の隅っこで。
その前を、先ほど頭からかぶってしまった赤いレースのブラジャーとお揃いのショーツを着用した菜乃花が歩き回る。
まるでモデルがランウェイを歩いているかのように、堂々と。
「まさか、ハジメくんがブラを頭からかぶるような変態だったなんて……驚いたわ」
歩くたびにたゆたゆと揺れるご自慢のFカップを見ないように、必死に耐えながら、ハジメは下を向く。
なぜ菜乃花が勝手に風呂に入っていたのかは置いておいて、下着に触ってしまったのは事実だ。
相手が誰であろうと、勝手に女性の下着に触れてしまい……それも、事故とはいえ頭から被っているような形になってしまったのだから、変態と思われても仕方がない。
「ほらほら、そんなに好きなら思う存分見ていいのよ? 駐在変態ハジメくん」
(いや、なんだそれ……スーパー戦隊みたいに言うな! ————絶対子供向けじゃないけど)
菜乃花は明らかにハジメをからかっているのは明らかだ。
見てはいけないと、右に顔を背けたら右側にやってくるし、左に背けたら左にやってくる。
下を向いたことに気づくと、今度は膝をついて無理やり視界に入ろうとしてくる。
「見ていいのよ? それとも、もしかして下着単体で興奮するタイプ?」
「どういうタイプだよ!! 俺にそんな性癖はない!!」
「えー……でも、顔真っ赤だよぉ? ハジメくん、何考えてるのかな?」
(くそ、この女——!! 本当に高校生かよ!!)
なんどゴクリと唾を飲んだだろうか、もうハジメは耐えられないかもしれないと思った。
菜乃花の誘惑に完全に負けそうだった。
しかし、それでも耐えねばならない。
(ああダメだ!! 俺は公務員だ!! それも警察官だ!! だからこそ、今目の前にいるこの超絶可愛い女子高生に手を出すわけにはいかない!!)
「俺が悪かった。わかったから、とりあえず服を着てくれないか? 風邪をひく」
「……ちぇ……つまんないの」
さすがに菜乃花も決して折れないハジメに今回は諦めたようで、口を尖らせながらハジメの視界から外れた。
(はぁ……死ぬかと思った)
「確かに、風邪を引いてハジメくんにうつしたら大変ね。それじゃぁハジメくん……なんでもいいから、服貸してくれる?」
「ふ、服? な、なんで?」
「あれ? もしかして覚えてないの? 私にあんなことしておいて……」
「え? あんなこと……って?」
なんのことだかさっぱりわからないハジメに、菜乃花は指をさして言った。
「私の服にいっぱいかけておいて、覚えてないの……?」
「いっぱい……? って、何を————」
指差した先にあったのは、菜乃花が着ていただろう紺色のワンピース。
袖口と裾の部分に白い液体が付着している。
「これは…………まさか!!」
酔っ払ったハジメが、吐き戻した牛乳だった。
「ハジメくん、ずーっと牛乳が飲みたいって言ってたから渡したのに、吐き出すんだもん。びっくりしちゃった」
(え……なにそれ……怖い)
◾️ ◾️ ◾️
酔っ払って帰って来たハジメ。
菜乃花が朝早く駐在所を訪ねた時には、昨夜畳の上に倒れ込んだままの体勢で眠っていた。
心配した菜乃花が声をかけたら、一度起きたのだ。
「ハジメくん、こんなところで寝ないでちゃんとお布団で寝ないと風邪ひくよ?」
「んー……」
そう菜乃花が促すと、寝ぼけながら服を脱ぎ始めた。
「えっ、やだ、ハジメくんったらそんな……大胆な」
菜乃花はキャッと顔を赤くしながら、でも嬉しそうに服を脱いでるハジメを見つめているとパンツ一枚になった。
そして————
「ぎゅうにゅー……」
「えっ?」
「牛乳が飲みたい……朝は、牛乳だろー」
半開きの目で、急に牛乳が飲みたいと言い出した。
「う、うん牛乳ね。わかった」
菜乃花が牛乳をグラスに注いで、手渡すと一気にぐびぐびと飲み始め……
「うっぷ……」
噴射。
「え……」
それからハジメはフラフラと寝室の布団まで歩いていき、再び眠りについたのだ。
「えええっ?」
◾️ ◾️ ◾️
「————ってことがあったんだけど……覚えてない?」
(何してんだ俺ぇぇぇぇぇっ!!!?)
全く覚えていないハジメ。
菜乃花の着れそうな服をタンスの中から探しながら、何が起きたかを知って泣きそうになった。
「全く覚えてない……とにかくすまん。俺が悪かった。服は弁償する……!!」
「そんな……洗えば落ちるから弁償なんてしなくても……」
「いや、弁償する!!! 絶対弁償する!!!」
「……そ、そう?」
いや、もう泣いていた。
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