第2話 駐在くん、捕まる
「ストーカー? ダメじゃないか比目。いくらこんな田舎に左遷されたのが悔しいからって、警察官が女子高生に手を出しちゃ」
「だから、ストーカーなんてしてませんって! ジンさん!」
駐在所に連れてきて、上司である
「あの子の話だともう半年以上も被害にあってるそうじゃないですか! 俺はまだこの村に来て二週間ですよ!? 一ヶ月も経ってないのに!!」
ハジメにストーカーされていると訴えてきたあの不審な女は、駐在所の奥にある居住スペースでストーブにあたりながら座ってお茶をすすっている。
急にストーカーの容疑者になってしまったハジメの心境なんて全く考えていないようで、のほほんとした雰囲気で。
あの不審な女の話を改めて聞いてみたところ、彼女は
この
(若いとは思っていたけど、まさか高校生だったとは……)
白い着物という出で立ちから、年齢がわからなかったが、ハジメより五歳も下だ。
そんな子供が半年前からストーカーにあっているというのは由々しき事態ではあるが、その容疑者がなぜか自分なのだから、たまったものじゃない。
冤罪にもほどがある。
なぜあんな格好で、こんな寒い中あんな誰もいない道の真ん中に立っていたのか聞こうとしたら、お茶のおかわりを要求されはぐらかされてしまった。
どうしてハジメを犯人扱いしてくるのかも……謎は深まるばかりだ。
「俺のことをストーカーだって言ってきたかと思えば、愛してると言えだのなんだの……あの子、おかしいですよ。変ですよ」
「ははは……そうだろうな。
「おかしなこと? あれですか……生まれつき……的なやつですか?」
「生まれつき? あぁ、そうだね……生まれつきと言えば、生まれつきか」
(発達障害とか……そういう感じかな?)
根倉村長と仁平は将棋友達で、甚平がこの駐在所に赴任した当初からの親友だ。
村長から聞いた話や、実際に自分の目で見た菜乃花の様子を思い出して、仁平は言った。
「————死んだはずのおばあさんが畑にいただの、墓参りにこないと先祖が悲しんでいるから今すぐ行けと言ったり……本人曰く、見えるんだとか」
「えっ!?」
「嘘か本当かわかんねぇけどな。いくつかそう言う不思議なことを言った後は、本当に起こったこともある。竜巻が起こると言った日に、本当に竜巻が起きたりな……地震の時もそうだった」
(そっち!? そっち系なの!?)
大人しくしていれば、ものすごく可愛いのに、時々意味のわからないことを言う菜乃花。
彼女の言葉を信じるか信じないかは、自由だが、今回のこのストーカーがどうのこうのというのも、何か見えたんじゃないかとは言いつつ、仁平はそこまで信じていないようだった。
「学校の成績も優秀らしいし、顔もほら、そこらへんのテレビに出てる芸能人なんかよりめんこいだろ? でも、たまにこういう意味のわからないことを言ったりするから、村長は心配してるんだ。嫁にもらってくれる相手が現れるかどうか——ってな。ただでさえ、この村には若者がいないからなぁ」
仁平はハジメに冗談でかけた手錠を外しながら、村に若者がいないことを嘆いた。
この村————女人村は小さな農村で、高齢化が進んでいる。
子供は数え切れるくらいで、小学生と中学生合わせても十人いるかいないか……
成人男性の独身で一番若いのでも四十代だとか。
その間の二、三十代となると、すでに結婚しているかこの村を出て行ってしまっている。
ハジメもこの村へ赴任する前は、村の名前からしてもしかしたら女の人がたくさんいる村なのかと、淡い期待を抱いていたが、いたのはほとんどご高齢のご婦人ばかり。
犯罪なんて起きやしないのどかな村だった。
「あぁ、でも、比目がいるか」
「え?」
「菜乃花ちゃんの相手だよ。どうだい? 年齢的にも……お前さん今、いくつだっけ?」
「二十一ですけど……」
「五歳差か。うん、ちょうどいいんでないか?」
「ええっ!?」
まさか上司にも勧められるとは思っていなかったハジメは焦った。
「そんな、何言ってるんですか!! あの子、高校生ですよ!! 犯罪ですよ!! 俺を犯罪者にしたいんですか!?」
「じょーだんだ、冗談。本気にするなよ……ははは」
冗談を真に受けてしまうほど、このハジメはものすごく真面目な男だ。
冗談の通じない男といえば聞こえが悪い気がするが、警察官としてこの実直さは良いことである。
(女子高生と……そんなことになったら、俺は今度こそ辞職しなきゃならなくなるじゃないか)
ちらりと菜乃花の方を見ると、目があった。
菜乃花は上目遣いでにっこりと微笑む。
(……可愛いな————って、違う違う!! 何考えてるんだ俺は!!)
本当に少しだけ、ちょっとだけイケない妄想が頭をよぎったが、すぐにハジメはそれを打ち消すように首を振った。
(俺は確かに、今まで女子とは無縁だったけど……でも、高校生だぞ……全く、落ち着け。俺は警察官だ! こんなんじゃ、本当に容疑者になってしまう! それだけは絶対にダメだ!)
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