第10話


「ここか」


もう日は落ち、灯がついた街にくりだし目的地に到着した。

いつもならこの時間は人が少なくなるがこの辺りはまだ人が集まっている。

現場と思われる場所には傭兵ギルドのマイナとニックスがいた。


「よう」

「お前たちか」

「事件があったって聞いてな。少しくらい俺らにも話を聞かせてくれるよな」

「お前たちも関係していることだ。話そう」



「今回の被害者はガット・レリクスだ。彼は城兵だな。お前たちとも関わりがあったのか?」

「ああ」

「それは残念だ。・・・話を続ける。ガットの遺体が入った袋が見つかったのが今から2時間前だ。ガットだとわかったのは袋から遺体を取り出す際にプレートが見つかったからだ。遺体の変化から見てまだ死後数時間も経っていない。つまり犯人は今日ガットを殺したとわけだ」


ガットさんは昨日は出勤で今日は非番なので殺された日付は今日でおそらく間違っていない。



「今回の事件の発見者って誰だ?」

「それがわかっていない」

「どういうことだ?」


普通事件を見つけるものがいるから事件になるわけであって、誰も発見していない事件は何もないことと同義だ。


「俺たちに事件のことを伝えてくれた人物はいる。だがそいつは他の奴に言われて俺たちの元へ来たわけで最初の発見者ではないそうだ」

「その他の奴ってのはもう現場にはいなかったてことか」

「そういうことだ」


「ちなみにそいつの特徴とかってわかるのか?」

「フードを被っていたそうだから詳しい顔の作りとかはわからなかったそうだが、声音と背丈から女みたいだ」


女か。

まだそいつが犯人と決まったわけではないが仮にそいつが犯人だとしたら、女でガットさんを殺せるってことは相当な手練れだな。

ガットさんは酒を飲まないから酔っている所を仕留めたとは考えられない。

あの人は不意を突かれてやられる程耄碌していない。


「何か犯人につながる手がかりはないのか?」

「探してはいるが、今のところめぼしいものはないな」


「ちなみに聞くが今日お前らは何をしていた」

「俺は城で仕事だよ。こいつも城にいた」

「・・・そうか」




そういうとニックスは仕事に戻った。


「琴美」


俺は琴美を呼び寄せて耳打ちする。


「ここを魔析眼で見てくれ」

「わかりました」


とその前にと前置きをして、琴美が話し始めた。


「魔力って人によって色が変わるんですよ。似ているような色はたくさんいますが誰一人として同じ色はいないですね。まだ視てる人が城内の人と少ないんで確証はないですが」


へぇ、それは初耳だ。

魔析眼の持ち主なんてそう現れないから知られていないことは多い。

もしかしたら魔析眼によって魔力の研究が大幅に進むかもな。


「ちなみに魔力の色が似通っている人に共通点はあるか?」

「まだわかっていませんが何かあると思います」


そこは琴美の勘だろうが、何かあるのは否定できない。



「まぁいい。琴美、ガットさんの魔力の色って覚えているか?」

「覚えています」

「じゃあ今からその魔力を探そう。死体の首がないなら犯人がガットさんの首を持っている可能性が高い。痕跡が残っているかもしれん」


琴美は袋を視る。その瞳はいつもと違い赤く染まっている。

魔析眼が使うと瞳の色に変化が起こるのか?それとも・・・・


「あそこです」


俺が考えていると、琴美が指を向けた。


事件現場からすぐ近くの路地。事件の様子を見るように近くにいた。

俺たちと目があうと、そいつは路地の奥に向かって走り出した。

逃げる気か。



「俺が追うからお前は城に戻ってテミスさんにこのことを伝えろ」

「嫌です。それにゼスさんが犯人逃しても私がいればすぐ追跡できます」

「ああもうわかったよ!どうせ何言ってもついて来るんだろが」

「はい」

「しっかりついてこいよ!」


そいつを追いかける。

どんどんと街からは離れ、スラム街の方へ向かっていく。

そいつの動きには一切無駄がなく、自分の庭のようにスラム街を駆け回る。


「待てっ!!!」


当然俺の制止の声は無視される。そいつとの距離が少しづつ開く。


こいつ、ここの地理に詳しいな。

俺も昔スラム街にいたことがあったが、迷いなく走り回れるほど地形に詳しくはなかった。



「待てって言ってるだろうが!」


もう10分以上走り続けているが、そいつは疲れている様子がない。


正直、琴美がいてくれて助かった。

こいつがいなければ簡単に見失なっていた。

後ろを軽く振り返り、琴美の様子を見る。なんとかついて来てはいるが顔から疲労が見れる。

琴美の体力を考えると、もう見失うわけにはいかないな。


「次の角を左です」


琴美の指示に従い突き当たりを左に曲がる。

するとそこは何もない広い場所だった。

スラム街の中にぽっかりと空いた大きな空間。明らかに異質な空間だ。


犯人であろうと思われる奴はそこに止まっていた。


「ようやく、止まってくれたか」


俺の声に反応してかそいつは俺たちの方に振り向いた。

そいつは汚れた灰色のローブを纏っていて、靴は履いていない。

そしてそいつの右手には何かが入っている袋が持たれている。


おそらくあの中にガットさんの首があるんだろう。


「なぜあの場から逃げた?お前がバラバラ事件の犯人か?」


そいつは肯定も否定もせずにただ俺たちを見ているだけだ。

俺の勘が言っている。間違いなくこいつは犯人だ。ここで逃すわけにはいかないな。


どうする、俺から仕掛けるか?

だがこいつはガットさんを殺したやつだ。迂闊に仕掛けたところで返り討ちにあうかもしれん。

そんな刹那の逡巡、そいつは琴美に向かって何かを投げつけた。


カーン!

甲高く響く音。


俺のナイフが弾かなければ琴美の心臓に奴のナイフが刺さっていた。

正確なナイフの投擲に、俺のわずかな逡巡を察しての行動。こいつやはり強い。


間髪入れずにそいつは間合いを詰めてきた。

疾走なような一撃を俺はナイフで応戦する。

薄暗い場所に火花が何度も散る。


こいつ力もある!

経験、本能、出せる全てを使ってなんとか凌いではいるが、少しづつ傷が増えていく。

少しでも油断すればすぐにあの世行きだ。


今は俺に集中してくれているが、いつ琴美を襲うとも限らない。

琴美を守りながら戦うのは無茶が過ぎるな。



「琴美お前は逃げろ」


視線は目の前の奴へ向けたまま、琴美に告げる。


「でもゼスさんが・・・」

「お前は足手まといだ。それにこのことを誰かに伝えてくれる役は必要だ」


極めて冷静を装って琴美に言う。

俺の焦りが伝わってはならない。琴美にも伝染するかもしれない。

俺が劣勢なのは琴美にもわかっているだろう。


「お前ならこの場所にもう一度来れるだろ。俺を助けるために増援を連れてきてくれ」

「・・・・・わかりました」



絞るように出た声に俺は安堵する。

加勢したい気持ちもあるんだろうがこの戦いに参加できる程の力はない。それをわかっているからこそ了承してくれた。


琴美は悔しそうな表情で来た道へと走って消えていく。


「逃して良かったのか」

「・・・・・まだ勇者を狩る時ではない」


こいつ、琴美が勇者だと知ってんのか!

やっぱりこいつは危険だ。この場で殺しておかなければ。

最悪刺し違えてでも・・・




そこから俺はこいつを倒すべく、戦った。








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