第9話


「遅かったですね。何してたんですか?」


琴美の部屋に入ると琴美がちょっと怒っているようで俺に詰め寄って来る。


「遅くなったのは謝る。テミスさんと話してたんだよ。ケドロス帝国の事とか今後のお前らについてとか色々」

「前から気になってたんですけどゼスさんってテミスさんと仲良いですよね」

「そうか?まぁ上司と部下ならそれなりに仲良くなるだろ。てかテミスさんは誰にでも優しくするからそう感じるんじゃねぇの」

「確かにテミスさんは優しいですよ。私たちのこともよく気にかけてくれます。でもゼスさんと接するテミスさんは他の人と違うように感じます」

「まぁ俺をこの城兵に推薦してくれたから気にかけてくれてるんだよ」

「どう見てもそれ以外に理由がありそうですけど」

「それよりお前話したいことあったんだろ」


琴美は納得がいかないようだが話を切り替える。


「そうでした」


琴美はこほんと咳払いをして話し始める。


「バラバラ事件について進展はありましたか?城内では情報を得られなくて」


基本勇者は外出禁止だから仕方がない。それにバラバラ事件自体情報操作されてるようだから城内でも話題には上がらない。


「俺も特には聞いてないな。街で新しく事件が起こっているわけでもないからな」

「でもゼスさんなら何か知ってることあるのかなって」

「何も知らん。てかさっきも言ったが俺のことを買いかぶりすぎだ。予言と予知だって俺の力とは言えないし、強さも持ち合わせてないしな」

「でも他の人が知らない事とか知ってますし」

「それは本を読んでるとか知り合いに色々詳しい奴がいるだけだ。話はそれで終わりか?なら帰るぞ」

「ちょっと待ってくださいよ。なんでそんなに帰りたいんですか」

「酒が飲みてぇんだよ」



適当にごまかして帰ろうかと思っていたら、城内から慌ただしい音が部屋まで聞こえてきた。

もう夜にさしかかり、警備の人員も少ないのに珍しい。


「どうしたんですかね」


琴美にも聞こえたようで不思議がっている。

あまり良い予感はしない。


「ちょっと見てくるわ」



俺は様子を知るために琴美を残して、部屋を出た。

部屋から出るとちょうど一人の兵士と出くわした。


「慌ただしいが何があったんだ?」

「街で城兵の死体が見つかった」

「それは確かか?」

「ああ。体はバラバラに切断されていたが間違いない。城兵証を持っていたそうだ」


城兵証とは城兵が身につけているプレートのことで、城兵になった際に与えられる物で名前が掘られている。もちろん俺も持っている。


そろそろ新しい被害者が出るとは思っていたがまさか仲間から出るとは予想外だ。


「それで身元は?」

「・・・ガットさんに間違いないそうだ」


そいつは悲しみを帯びた顔で名前を告げた。


ガットさんか。

城兵の中で最年長であり、みんなの相談役として慕われていた。

勇者の教育にも熱心で富良はガットさんから直接指導も受けていてまだ短い期間とはいえ良き師弟関係を築いていたんだけどな。


「そうか。このことは他の奴らも知ってんのか?」

「今伝えている最中だ」

「そうか。伝えてくれてありがとうな」

「ああ。じゃあ俺は急ぐぞ」

「ちょっと待ってくれ」

「なんだ?」

「その死体ってどこで見つかったんだ?」

「繁華街の路地だよ。・・・袋に詰められていたそうだ」


こいつの怒りの感情が目に見えてわかる。


「そうか。花でも手向けに行くよ」

「それがいいな」


そいつは少し笑うと俺の元を去って行った。


面倒なことになったな。

俺は部屋に戻る。


「何かあったんですか?」


ここで誤魔化すこともできるが、あまり意味をなしそうにない。

こいつは疑問を持ったらすぐに行動に移したいタイプだからすぐに部屋を出て確認を取りに行くだろう。


「ガットさんが死体で見つかったそうだ」

「!!!ガットさんが・・・」


琴美も関わりがあるから、ショックは大きいだろう。


「そういうわけで俺は用ができたからもう行くぞ」

「ま、待ってください!」


踵を返してすぐ部屋をでようとしたが、琴美に腕を引っ張られて止まる。


「なんだよ」

「それってもしかしてバラバラ事件と関係があるんですか?」


心の中で舌打ちが出る。

そういうことを聞かれるのが嫌で早く部屋を出たかった。


「・・・関係はあるかもしれないな。死体はバラバラになって袋に詰められていたそうだ」

「!!!」

「そういうわけだ。俺は現場に行ってくる」

「私も連れて行ってください」


こう言うことがわかっていたから早く部屋を出たかった。


「お前は連れていけないのはわかってんだろうが」

「わかってますよ。それでも連れて行って欲しいです」

「お前が行った所で何も役に立たん。おとなしく待ってろ」

「でも!これ以上被害者が増えるのは耐えられません」

「自分の立場を考えろ」

「私の魔析眼なら何かわかることがあるかも知れません」


それは確かにそうなんだよな。

普通にはわからない魔力の痕跡を感知できれば犯人を突き止める可能性は大いにある。

そして魔力の痕跡は時間が経てば消えてしまうから早いほうがいい。

勇者を外出させる準備をしていると手遅れになる場合もある。


はぁ・・・仕方ないか。


「多分この後お前の部屋の様子を見に誰か来るだろうからそれまで待ってろ。その後連れて行ってやる」

「いいんですか?ありがとうございます!」




その後琴美を連れてばれないように城から脱出した。

ばれたら懲戒退職で済めばいいんだが。今は考えるのはやめておこう。



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